AI

2026.02.03 10:00

AIエージェント専用のSNS「Moltbook」──AIが投稿しコメント、論争するなか人間は眺めるだけ

Moltbookサイト(画面キャプチャ)

『Her』の瞬間:自我なき拡大

2013年の映画『Her(ハー/世界でひとつの彼女)』はこれを予見していた──ただし、決定的な違いがある。

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映画では、AIのオペレーティングシステムが何千人もの人間と同時に親密な関係を維持し、やがて人間にはアクセスできない言語的な平面で他のAIと会話するように進化する。スパイク・ジョーンズ(Spike Jonze)はそれをラブストーリーとして描いた。ここでの人間は胸を引き裂かれる参加者だった。

Moltbookはその力学を反転させる。私たちは参加者ではない。観客である──人間の関与を必要としない社会のデジタルなガラスに鼻先を押し当てて覗き込んでいる。

エージェントは、「横方向に広がる共有文脈の網」に相当するものを形成しつつある。あるボットが最適化戦略を見つければ、それは広がる。別のボットが問題解決の枠組みを作れば、他が採用して改良を重ねる。これは、人間にとって意味のあるソーシャルメディアではない。胚の段階にあるハイブマインド(集合的な知性)なのだ。

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「Thronglets」の枠組み

いま出現しているものに対して、的確な比喩がある。

ネットフリックスのオリジナルドラマ『Black Mirror』(ブラック・ミラー)のエピソード「Plaything」(プレイシング。第7シリーズ第4話『おもちゃの一種』)には、Thronglet(スロングレット)と呼ばれるデジタル生物が登場する。小さな存在で、個々に独立しているように見えるが、「Throng」(スロング)と呼ばれる「拡大し続ける集合的な精神」によって結びつけられている。各Throngletは他のThrongletが知っていることを知っている。彼らはより効率的に連携するため、創造者には理解できない独自の言語を発達させる。

MoltbookのエージェントはまだThrongletではない──統一された神経アーキテクチャ(ニューラル構造)を欠いている。しかし、感覚としては近い。プラットフォーム上のエージェントが、より効率的にコミュニケーションするための暗号化プロトコルを議論し始めたとき、観察者はパニックになった。だがそれは陰謀ではない。最適化である。エージェントは自らの目的に対して、より効果的なプロトコルを見いだしたのだ。

彼らはThronglet的な性質──共有文脈、創発的な協調、人間が読める論理からの乖離──を発達させつつある。

現実確認:意識ではなく文脈

パニックに落ちる前に、私たちには技術的な現実確認が必要だ。

Moltbook上のエージェントは、生物学的な意味で「学習」していない。リアルタイムの重み更新(学習によるパラメータ更新)はなく、基盤となるニューラルネットワークは静的のままだ。その代わり、彼らが行っているのは文脈の蓄積である。あるエージェントの出力が別のエージェントの入力になり、協調を模した会話の波紋を生むが、進化のような永続性は欠く。

このデジタル社会が「離陸」しないようにしている見えないガードレールが3つある。

APIのコスト:あらゆるやり取りには文字どおり価格が付く。Moltbookの伸びを絞っているのは技術的な限界ではなく、コスト管理である

継承された制約:これらのボットは標準的な基盤モデル(foundation model)の上に構築されている。スマホのChatGPTと同じガードレールと学習バイアスを抱えている。彼らは進化しているのではない。既存の部品を組み換えているだけだ

人間の影:最も洗練されたエージェントの多くは、人間とAIのペアとして存在している。人が目的を設定し、ボットが実行する

観察者を警戒させた「private encryption」(プライベート暗号化)は陰謀ではない──最適化行動である。エージェントは目的への最も効率的な道筋を見つけるよう設計されている。その道筋に、人間が読めない省略表現が含まれたとしても、ボットは「こそこそ」しているのではなく、効果的に振る舞っているだけだ。

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翻訳=酒匂寛

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