それぞれの企業にとって、目指す成長のかたちは違う。アトツギならではの長期目線で未来を描く2社の言葉のきらめき。マクアケ創業者による連載第60回。
「企業の成長」とはなんだろう。急成長を目指す企業もあれば、何代にもわたって事業を長く続けたいと考える企業もある。売り上げや利益を拡大したい企業もあれば、規模は小さくとも、手の届く範囲の顧客に価値を届け続けたいと考える企業もある。「目指したい成長」のかたちは異なるが、顧客、従業員、株主、社会が良いと思えるものであればど れも否定されるものではなく、それぞれの成長を応援できる世の中であると良いと思う。
先日、京都で行われたAVS 2025(アトツギベンチャーサミット2025)は、あらためてそう考えさせられるイベントであった。全国のアトツギ経営者が集い、事業承継を起点とした挑戦や成長のあり方を共有するこのイベントのオープニングセッションに登壇したのは、京都を拠点に創業150年を迎えた老舗「開化堂」の代表取締役、八木隆裕氏だ。明治8年にブリキ製の茶筒づくりを始めて以来、150年にわたり製法と技術を磨き続けてきた。ふたと筒が生み出す独特の密閉感は、同社の象徴的な技術として知られ、今や世界的な評価を受けている。
開化堂の茶筒の値段はおよそ2万円からである。一見高額と感じてしまうが、八木氏の話は示唆に富んでいた。なかでも印象的だったのが、販売を任せる取引先を選ぶ際の判断軸のひとつに、「家族のような関係を築けるかどうか」を挙げていた点だ。家族のように自分たちを理解し、思いあう関係を築くことで、商品の機能や品質だけでなく、その本質的な良さや精神性も含めて、丁寧に顧客に伝えてくれるようになるのだという。
非合理にも映るこの判断軸は、実は自社の商品を最大の価値で、しかも長い時間をかけて届け続けるための、極めて合理的な選択なのだと感じさせられた。ともすれば一括で大型販売企業にディスカウント版を大量に卸す判断もできただろうが、そうではない道を選んだことで、茶筒というカテゴリーでは高額と思われる商品でも、価値を感じてくれる人がいて、きちんと届く商流を築けているのだ。言語化するのであれば「家族が増えていくような成長」とでもいうのか。これも素敵な企業の「ありたき成長」の在り方だと思った。



