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2026.01.31 13:00

AIの父ヤン・ルカン設立、「世界モデル」新スタートアップが医療を狙う理由

ヤン・ルカン(Chesnot/Getty Images)

ヤン・ルカン(Chesnot/Getty Images)

「AIのゴッドファーザー」の1人と称される世界有数のAI専門家、ヤン・ルカン。彼が設立した新会社「Advanced Machine Intelligence(AMI)」は、新しいタイプのAI技術「世界モデル」の開発を掲げている。そのCEOに抜擢されたのが、意外にも医療AIスタートアップ「Nabla(ナブラ)」の創業者、アレックス・ルブランだった。Nablaは、医療スクライブ(診察内容の文字起こしサービス)を手がけるスタートアップだ。なぜ最先端の汎用AIラボが、特定分野である「医療」の起業家をトップに据えたのか。ルブランは、ミスが許されない医療現場こそが次世代AIの主戦場になると語り、新モデルの1年以内の展開を示唆している。

ヤン・ルカンが新会社AMIを設立、医療AI起業家をCEOに抜擢

2025年11月、世界有数のAI専門家ヤン・ルカンは、メタのチーフAIサイエンティスト職を離れ、「世界モデル」(world models)と呼ぶ新しいタイプのAIを構築する自社を立ち上げると発表した。現在、彼はAMIのエグゼクティブ・チェアマンで、同社は約35億ドル(約5390億円。1ドル=154円換算)程度の評価額で資金調達を目指している。だがCEOとして彼が選んだ人物は、一見すると意外だ。パリを拠点に、AIで医師の診療内容を文字起こしするヘルステック・スタートアップの共同創業者、アレックス・ルブランだ。

AIラボのCEOとしてはニッチな人選に聞こえるかもしれない。だがそれは、テキストだけでなく動画や空間データからも学習し、世界を理解しようとするこの話題の企業が、医療に大きく重点を置くことを示している。最初に公表された提携先も、ルブランの会社Nablaとなる。

ルブラン、「世界モデル」の医療適用を目指す

「医療は私の『ベイビー』(最も大事な分野)で、私たちは今日の時点で解けない問題が何かを分かっています」とルブランは、サンフランシスコで開かれたJ.P.モルガン・ヘルスケア会議の会場脇でのインタビューで語った。「この新しい分野(AI)が、医療で今日できることを超える助けになることを期待しています」。

ルブランはNablaのCEO職を離れるが、同社の会長およびチーフAIサイエンティストとして残る。彼は以前、自身が創業した別の会社がメタに買収された後、メタでルカンの直属として働いた。ルブランはForbesに対し、新スタートアップのCEOになりたかった大きな理由は、世界モデルを医療に適用することだったと語った。

ハルシネーション(幻覚)を起こすLLMのリスクを、世界モデルで克服

AMIは製造業やロボティクスも狙うが、医療は分野の複雑さと影響の大きさゆえに重要な重点領域である。AIが業務運用と臨床実務の両方を変革するという期待は高い。だが大規模言語モデル(LLM)は、ハルシネーション(幻覚)や誤りを生む傾向があり、医療、とりわけ人命が関わる臨床側では大きな潜在的問題となる。世界モデルの推進派は、こうした幻覚の問題を抑えられると考えている。

医療データは「連続的で、高次元で、ノイズが多い」

医療データは、医療検査由来であれセンサー由来であれ、「連続的で、高次元で、ノイズが多い」とルカンは電子メールでForbesに述べた。生成AIは臨床文書化には機能する一方で、「より影響の大きい用途には、生成的アプローチはうまく機能しません」とも述べた。「世界モデルは、エージェント型システムが自らの行動の結果を予測し、安全のガードレール(制約)のもとで、タスクを達成するための行動シーケンスを計画できるようにします。これによって、信頼性、制御可能性、安全性が本当に重要となる医療領域で、新たなカテゴリーのAIアプリケーションが可能になります」。

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翻訳=酒匂寛

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