経済・社会

2026.02.03 16:15

国家を超えた「クラウド帝国」の世界地図の現在、未来はどうなるのか?(前編)

ヴィリ・レードンヴィルタ(ジョエル・キンメル=イラストレーション (C)MIKKO RASKINEN)

——最新の研究では、第三国が米国・中国いずれのネットワーク・ハブに結びつくかは、貿易などの経済要因と、同盟・対立といった安全保障要因の双方によって規定されることが示されている。今後10年を見据えたとき、クラウド帝国の勢力圏を左右する決定的要因は、引き続き経済なのか? それとも、米中対立の激化によって、安全保障要因がより支配的になると考えているか?

advertisement

安全保障や地政学的要因がテクノロジーインフラに対して及ぼす影響は、今後さらに強まっていく。残念ながら、テクノロジー分野における「開かれた国際経済秩序」はすでに過去のものとなりつつあるように思われる。ヨーロッパでは「デジタル主権」を求める圧力が急速に高まっており、同時に米国政府も、他国のテクノロジー政策に対する介入を一段と強めている。

東南アジア諸国の例は、その変化をよく示している。マレーシアやインドネシアは、伝統的に非同盟的な外交姿勢をとってきた。特にマレーシアは、データセンター拠点として成長する過程で、米中双方からのテック投資を呼び込み、戦略的ヘッジングを図ってきた。しかし、最近締結された米国との貿易協定では、米国の輸出規制政策に従うことが求められており、これは中国のテック・サプライチェーンを脅かしかねない。

一方で、中国政府は技術輸出や海外でのインフラ整備への補助を引き続き拡大している。最近ではアリババ・クラウドがフィリピンにふたつ目となる大規模データセンターを建設すると発表した。

advertisement

正直なところ、東南アジア諸国が今後も戦略的ヘッジングを維持できるのかについて、私自身確信が持てなくなっている。この点については現在進行形で研究を進めている。

——従来の「相互依存の武器化」論は、大国が一方的にネットワークを戦略的に利用する構図を前提としてきた。しかし教授の研究は、第三国もまた能動的な戦略選択を行っている点を強調している。日本やインドのような中堅国は、将来的にクラウド帝国の勢力圏に受動的に組み込まれる存在なのか?それとも、新たなデジタル秩序の形成に主体的な役割を果たすのか?

まずもって認めなければならないのは、投資規模、技術革新力、国内市場の大きさという点で、米中という二つのテクノロジー超大国と、それ以外の国々との間には非常に大きな隔たりが存在するという事実である。それでもなお、中堅国に一定の行動余地を与える要因が二つある。第一に、現在の世界が「単一覇権」ではなく「二大強国」の時代である点だ。
冷戦期には、インドのような国がこの状況を巧みに利用し、自国の立場を有利に運ぶことができた。ただし、近年のマレーシアの例が示すように、規模の小さい国ほどこのような戦略的ヘッジングは難しくなりつつある。

第二に、冷戦期にはほとんど見られなかった要素として、テック企業そのものが、自国政府とは必ずしも一致しない独自の戦略的利害をもち、一定の主体性をもって行動している点がある。たとえばパランティア・テクノロジーズのように、国家安全保障と密接に連携する「ナショナルチャンピオン」を志向する企業もあれば、Appleのように自国政府とは一定の距離を保ち、できるだけ多くの市場へのアクセスを維持しようとする「グローバル志向」の企業も存在する。このため、中堅国はテクノロジー超大国の政府と常に足並みを揃えられなくとも、個々のクラウド帝国企業とは直接的な理解や合意を築く余地をなお保持していると言える。

次ページ > 欧州や日本が「デジタル主権」を本格的に確立できる可能性は?

井村凪伯(経済学101)=インタビュー・文

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事