経済・社会

2026.02.03 16:15

国家を超えた「クラウド帝国」の世界地図の現在、未来はどうなるのか?(前編)

ヴィリ・レードンヴィルタ(ジョエル・キンメル=イラストレーション (C)MIKKO RASKINEN)

——ネットワーク経済はミクロ経済学で十分に説明可能だとするシャピロ&ヴァリアンの『情報経済の鉄則』における分析はどのような重要な要素を見落としているか?

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『情報経済の鉄則』は名著であり、私自身も高く評価している。ネットワーク経済の理論は正しい。しかし、デジタル取引プラットフォーム間の競争を理解するうえで、ある重要な要素を見落としている。それが「制度」である。

ネットワーク経済学の観点では、プラットフォームは売り手と買い手といった利用者同士をマッチングすることで価値を生み出す。これにより正のネットワーク効果が生じ、規模が大きいプラットフォームほど、より多くの潜在的取引を可能にするため価値が高まる。プラットフォームの独占を防ぐための主要な政策提言は「相互運用性(interoperability)」を義務づけるというものだ。これは、新規参入者が既存プラットフォームのネットワークに接続できるようにすることで、さもなくば永続化しかねない規模の優位性を無効化するという考え方だ。

『デジタルの皇帝たち』では、この提言がどこで道を誤ったのかを示している。1990年代の時点で、主要なインターネットサービスはすでに相互運用的であった。たとえば当時の電子商取引市場は、数千の事業者が接続する分散型ネットワークとして存在していた。それでもこのモデルは崩壊した。その理由は、詐欺対策といった公共財的性格をもつ制度への投資がなされなかったからである。分散型ネットワークでは、全体の利益になるような制度的インフラに投資するインセンティブをもつ「中央的権威」が存在しない。そのため、市場は急速に詐欺とスパムに侵食された。

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政府もまた、この役割を効率的に担うことはできない。なぜなら政府の管轄権は領土に基づくのに対し、デジタルプラットフォームはグローバルなものであり、取引は常に国境をまたぐからである。

したがって、デジタル経済が少数のプラットフォームに支配されるようになった理由は、ネットワーク効果や反競争的戦略だけではない。消費者や中小企業がプラットフォーム企業による支配を受け入れたのは、そうした企業が秩序と安全を提供したからだ。今や誰もがこの構造にロックインされ、プラットフォーム企業は強大な地位を利用して利益を得ている。もちろんこれは深刻な問題だが、すでに一度失敗し、スケールしなかったかつてのアナーキーな分散型インターネットへ回帰することは得策ではない。

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井村凪伯(経済学101)=インタビュー・文

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