経済・社会

2026.02.02 14:15

『エリート過剰生産が国家を滅ぼす』著者に聞く、2026年の世界と日本

ピーター・ターチン(ジョエル・キンメル=イラストレーション)

ピーター・ターチン(ジョエル・キンメル=イラストレーション)

「西洋先進国は暴動と激しい分断が渦巻く社会崩壊期に突入する」。アシモフのSF小説に登場する未来を予測する有名な学者ハリ・セルダンに例えられることもある、数理生態学・歴史学者ピーター・ターチンに米国、世界、日本の未来について聞いた。

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——まず、あなたの提唱している理論について簡単に解説してほしい。

提唱しているのは構造・人口動態理論(SDT)だ。この理論は、国家として組織された大規模な社会が、二極化、社会的分断、制度的機能不全等によって、政治的な不安定性を周期的に経験する現象を説明している。理論では、短期的な事件に焦点を当てず、数十年にわたって蓄積する深い構造的圧力を追跡している。

2010年の『ネイチャー』誌に投稿した論文では、歴史データと、現代のアメリカと西欧の指標を用いて、この構造的圧力を算定し、以後10年間で不安定性が増大し、2020年にピークを迎える可能性が高いと結論付けた。

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不安定化をもたらす構造的圧力を算定するにあたって、構造・人口動態理論では次の3つのプロセスの相互作用を強調している。

1つ目が、「エリート過剰生産」だ。政治、ビジネス、法律、アカデミアなどでのエリートを志願する人数が、権力の座を上回るペースで増加すると、エリート内で競争が激化する。挫折したエリート志願者の一部は、カウンター・エリート(対抗エリート)になり、大衆の不安を煽り、政治を二極化させる活動に従事するようになる。

2つ目が、「大衆の窮乏化」だ。非エリート層内での、停滞する賃金、格差の拡大、生物的・社会的健康の悪化によって、ウェルビーイング(幸福健康度)が低下する。これが進むと、大衆は不満を募らせ、大規模に流動する潜在的可能性が増大する。

3つ目が、「国家財政の脆弱性」だ。政府歳入が、増大する費用に追いつかないと、社会的ストレスに対処する国家の能力は低下し、危機の管理が困難となる。

この3つの圧力が同時に高まると、相互作用して強まっていく。大衆の不安が高まり、それをカウンター・エリートは既存エリートに対抗させるために組織化し、国家は国内秩序を維持する能力を徐々に失っていく。過去の歴史を見ると、こうした収斂は、「革命的状況」の兆候であり、革命や内戦へとスパイラル的に発展する危険性が高まる。

構造・人口動態理論から、こうしたダイナミクスは循環することが分かっている。混乱した時期の後には大抵、安定を回復させるための改革が行われるが、それも構造的圧力がまた蓄積されるまでしか続かない。2010年の予測の基礎になっていたのはこうした考え方だ。特定の出来事を予言したものではなく、不安定性を根底から引き起こす構造的な要因が激化していると評価したのだ。

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青野浩(経済学101)=インタビュー・文

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