——ジャレド・ダイアモンドのようなほかの「ビッグヒストリー理論」では、日本の歴史や社会をうまく説明できていないように見える。あなたの理論は日本にも適用できているのか?
地球上のあらゆる地域の歴史は、その地域の独自性と、普遍的原理の組み合わせからなっている。日本は他の地域に比べて異常というわけではない。新著『大完新世変革』(未訳)では、私が主宰する歴史上のビッグデータを集めるセシャト・プロジェクトで構築したグローバル・ヒストリー・データバンクを用いて様々な国家を分析しているが日本も分析している。
本では、大規模複雑社会の進化を形作る普遍的原理を説明するのに、日本を何度か取り上げている。本ではいくつかの地域を比較して、日本の軌跡は二次的国家創生が起こった地域の典型例であり、イタリアのような国と類似していることを示している。東アジアでは、一次的国家形成は中国北東部で起こり、日本・韓国・ベトナムのような国は、中国から多くの文化的要素を借用した二次的国家だと定義している。
構造・人口動態理論のフレームワークも、日本にも完全に適用可能だ。日本は文化的に「例外」でも、分析的に風変わりな「外れ値」でもない。日本は、高い教育を受けた国民、成熟した議会制度、他の先進工業民主主義国家と比較可能な制度を備えたリベラルな立憲主義国だ。なので、日本の政治的・文化的分析において、構造・人口動態理論の要素で適用できないものは何もない。
——しかし、日本ついて分析したあなたの論文では、政治的ストレス指標と暴力事件数はあまり相関していない(アメリカでは強く相関している)。一方で、日本では、ユースバルジ(若年層膨張)のほうが、暴力事件数と強く相関している。これについてはどう考えているのか?
この質問には、2つのレベルで答えさせてほしい。
一般的なレベルでは、構造・人口動態理論を完全に成熟した理論と主張しているわけではない。日本についての論文で主な目的としているのは、日本を事例研究にして、構造・人口動態理論の予測を検証することにある。検証の結果、理論が、一部、あるいは多くの点で破綻する可能性は十分に認識している。理論になんらかの破綻があれば、社会が構造・人口動態的な危機に、どう対処すればよいかについて、もっと深く学び、理論を精緻化することができるだろう。
具体的なレベルでは、「暴力事件」とは局地現象、つまり限定的な死亡者を出す「ミクロな不安定性」の一つの事例に過ぎないことに注意してほしい。日本では、暴力事件数は、たしかにユースバルジ(若年層膨張)のほうが強く相関している。しかし、関心があるのは革命や内戦のような「マクロな不安定性」を理解することにある。なので、構造・人口動態理論の適切な検証には、2050年まで、つまり長期的に検証しないといけない。


