——2020年の論文で、アメリカの不安定性は、ほかの西側諸国に伝染していると指摘している。今も続いているのか?
そうだ。トランプの国際舞台での行動は、これまでの世界秩序を損ねており、特に西ヨーロッパや東アジアのアメリカの同盟国に大きな影響を与えている。ある意味、アメリカは不安定性を世界中に輸出している。
——伝染は、西側諸国だけなのか?
アメリカの地政学的なライバル国には逆の影響を与えている。ライバル国はアメリカからの圧力の増大によって、内部的な結束を強めている。これはロシアと中国で最も顕著だ。
——その「内部結束」について聞きたい。あなたの理論では、社会の安定において、個人が社会に順応する「向社会性」の重要性を強調している。そして「向社会性」には、敵が必要だとしている。すると、社会を安定化させるには、ナショナリズム、集団同士の闘争、集団の均質・同質性(文化的多様性や移民の否定)といったものが必然的に導かれてしまうのではないか? もしそうなら、これは今の民主主義国家では許容が難しいのではないだろうか?
その質問は、このインタビューで扱うには大きすぎる問題だ。簡単に言うなら、国家間の競争は重要だが、戦争という致死的な形態を取る必要はない。必要な競争とは、市場における企業間の競争のようなものだと想定して欲しい。
次に、多様性は、分けて考えることができる。技術やアイデアの多様性は、ポジティブ要因だ。
しかし、協力形態の多様性は、社会全体で協力する能力を蝕むため、ネガティブ要因だ。これの簡単な例として、相互に理解できない言語を話す多数のグループから構成される人口集団について考えてみてほしい。そうした集団では、まとまった協力ができるだろうか?
——つい最近書かれた日本を分析した研究論文(未公開、『不和の時代(仮)』の日本語訳版に収録予定)について、簡単に紹介してほしい。
日本でも特に1990年代半ば以降、エリート過剰生産、大衆の窮乏化、国家財政の脆弱性という3つの圧力が進行している。つまり、政治的ストレス指標は上昇を続けている。2022年の安倍晋三銃撃事件とそれに続いた(岸田文雄元首相)暗殺未遂事件は、将来の大規模な不安定性の予兆と解釈できる。このままだと不安定性は2030年から40年の間にピークを迎える。しかし、高齢化によって1970年代のような大規模で暴力的な抗議活動やゲリラ運動が発生する可能性は低く、暴力事件が増加しても、知名度の高いエリートをターゲットにしたものになるだろうと予測している。さらに、この予測の正確性を評価するために、10年後に再検討することを計画している。


