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2026.01.29 11:15

【KIBOW五十嵐剛志寄稿】インパクト投資は社会を良くしているのか

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日本の現場で起きやすいズレ

日本のインパクト投資は、実務の成熟という観点でまだ発展途上の面がある。だからこそ、方法論のキャッチアップに注力するあまり、本質を見失いやすい。たとえば次のようなズレが起きる。

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第一に、インパクト測定が「事業改善」よりも「投資家向け説明」として運用されやすい。第二に、短期の定量指標が強調され、長期的な社会構造の変革が置き去りになりやすい。第三に、受益者の声が意思決定に入る回路が弱い。これは起業家の努力不足ではなく、構造的な問題だ。

投資家の側も、意思決定に必要な情報は欲しい。しかし「比較可能性」を求めすぎると、本質を見失い、起業家の経営を縛り、結果的にインパクトそのものを弱める可能性がある。ここに、投資家と起業家の見えざる対立が生まれる。

乗り越える鍵は「対話の設計」にある:社会正義の視点

Lehnerらは、この対立を乗り越える視点として、ノーベル経済学受賞者であるアマルティア・センの社会正義論を参照する。ポイントは、理想的な唯一解を設計するのではなく、現実に存在する不正義を減らすために、開かれた議論を積み重ねるという姿勢にある。

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これをインパクト投資の文脈に当てはめると、真のインパクトとは、単に事前に設定された指標を達成することではない。受益者が、自らの価値観に基づいて活動を選択し、その能力を最大限に発揮できる状態を尊重し、支援することこそが重要である、という考え方に行き着く。

では実務で何をすればよいか。結論はシンプルで、インパクト測定を「技術」ではなく「対話のプロセス」として設計し直すことである。具体的には、次の3点が重要になる。

1)重要性(マテリアリティ)を固定せず、定期的に更新する
 社会課題も事業も環境も変わる。重要性は一度決めて終わりではない。投資家と起業家が、少なくとも年次で重要性を見直す仕組みを持つ。

2)受益者の声を、意思決定に入れる回路を作る
 全てを定量化する必要はない。むしろ、定性的情報を意思決定に耐える形で扱う能力が問われる。受益者のフィードバックを、KPIの背後にある前提として扱う。

3)仲介者は「公平な観察者」になれるかを問う
 仲介者が関与するなら、商業的利害を含む透明性を高め、対話の公正さを支える役割を明確にする。標準化は目的ではなく手段であることを共有する。

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