スタートアップエコシステムを再設計する
ミッション・ドリフトを回避し社会的価値と経済的価値を持続的に両立させるためには、起業家の覚悟や善意に依存するのではなく、エコシステム全体の前提条件を再設計する必要がある。
具体的には、インパクトVCは従来型VCと同一のファンド期間や報酬体系、急成長と早期EXITを前提とした投資モデルを見直し、社会的パフォーマンスを投資判断やガバナンスに明示的に組み込むことが求められる。同時に、スタートアップ側も、経営陣の報酬設計や取締役会の構成、定款や認証制度の活用を通じて、自らの使命を守るガバナンスを主体的に構築すべきである。さらに長期的には、インパクト投資市場全体として、投資家の説明責任や受託者責任の在り方を再定義し、インパクト会計などインパクトの測定・開示に関する標準化を進めることが不可欠だ。こうした多層的な改革なしに、真のインパクトと持続的成長を両立することは難しい。
「成功」の定義を問い直す
本稿が提示する最も重要な示唆は、ミッション・ドリフトの問題が、個々の起業家の問題ではなく、私たちが「成功」と呼んできたものの定義そのものに起因しているという点だ。
急成長と早期EXITだけが成功なのか。そうではないはずだ。持続的な成長を通じて、従業員、顧客、地域社会に価値を積み重ねていく。そうした多様な成功モデルを認め、それを支える金融のあり方を再設計することが、インパクト・エコノミーが次の段階へ進むために不可欠である。
本稿が、日本のインパクトスタートアップ創業者、投資家、そして資本市場に関わるすべての人々にとって、「成功とは何か」を問い直す契機となることを願っている。
参考文献:Aguirre, Emilie. "The Hidden Cost of Venture Capital." Iowa Law Review, vol. 111, 2025, pp. 63–115.
五十嵐剛志◎KIBOW 社会投資ファンド インベストメント・プロフェッショナル。慶應義塾大学経済学部卒業、英国オックスフォード大学経営学修士(MBA)。 PwCあらた有限責任監査法人、内閣府、米国ハーバードビジネススクールImpact-weighted Accounts Initiative、英国政府系インパクト投資ファンドBig Society Capitalを経て現職。社会課題解決のためのファイナンスに関する調査、研修、政策企画に従事。Accountability for Change創設者。元Teach For Japan最高財務責任者。インパクトスタートアップ協会監事。公認会計士。


