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2026.01.30 08:45

「成功」の定義を問い直す━━。インパクトスタートアップが抱える知られざるジレンマ

rookielion - stock.adobe.com

VCモデルに組み込まれた「急成長とEXITへの圧力」

VCは、短期間での急成長とEXIT(IPOやM&A)を前提とした投資モデルである。10年という期間の定められたファンド構造、成功報酬に依存するインセンティブ、少数の「ホームラン」で全体のリターンを確保する戦略。これらが組み合わさることで、VCモデルは投資先に対し、時間的制約の強い成長圧力を生み出す。

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論文が示す重要な点は、この圧力が必ずしも明示的な命令として現れるわけではないということだ。経営陣や従業員の注意は、VCが最も評価する指標へと自然に引き寄せられ、短期的な成長に直接結びつかない社会的目標は、暗黙のうちに優先順位を下げられていく。この「注意の転換」こそが、社会的パフォーマンスを徐々に押し出していくミッション・ドリフトのメカニズムである。

善意では抗えない構造:米国スタートアップの事例

この構造を象徴するのが、ソーシャルメディア管理ツールを提供する米国企業の事例だ。同社は創業当初から、従業員のウェルビーイングや高い透明性を重視する企業文化を掲げ、そうした価値観を共有したうえでVC資金を受け入れていた。創業者と投資家の関係は良好であり、いわゆる対立や不信があったわけではない。

しかし、事業が成長するにつれ、VCモデルが前提とする急成長と早期EXITの時間軸と、同社が重視してきた持続可能な成長や組織文化との間に、次第に緊張関係が生じていった。その結果、同社は自社の長期的なビジョンと経営の自律性を維持するため、VCが保有する株式を整理し、資本構成を見直すという判断を下した。

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この事例が示しているのは、経営者と投資家の信頼関係の有無にかかわらず、VCモデルに内在する構造的な要請が、企業の目指す方向性と摩擦を生み得るという点である。株式の買戻しは対立の結果ではなく、使命と成長のバランスを再設計するための一つの合理的な選択肢として位置づけることができる。

インパクトVCも例外ではない

では、社会的インパクトを重視する「インパクトVC」から資金調達すれば問題は解決するのだろうか。論文は、必ずしもそう単純ではないと指摘する。

多くのインパクトVCは、「成長すればインパクトも拡大する」「社会的目標と財務的目標に大きなトレードオフはない」といった前提に立っている。しかし現実には、社会的価値の質を維持しながら拡大するには、追加的なコストや専門性が不可欠であり、短期的な財務目標と衝突する場面は避けられない。

それにもかかわらず、インパクトVCの多くは、従来型VCと同様のファンド構造や報酬体系を採用している。その結果、インパクト投資であっても、意図せずしてミッション・ドリフトを引き起こす圧力を投資先に与えてしまう。

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