テッポウウオは、どうやって人間の顔を記憶しているのか
魚を訓練して、写真に向けて水を噴出させることを、かわいらしい芸の一つのように感じる人もいるかもしれない。しかし、科学的に言えば、これは容易な行動ではない。それどころか、この研究は、魚の知能と脳の構造について長く信じられてきた仮説の多くに疑問を投げかけるものだ。
人間と多くの哺乳類は、脳内の特定の領域、つまり大脳新皮質を使って顔を識別している。この領域があるからこそ、私たちは人ごみの中でも友人の顔をすぐに見分けられる。ところがテッポウウオは、この大脳新皮質をまったく持たないにもかかわらず、学習することで、人間と同じように視覚的な識別作業を遂行することができたのだ。
この知見は、単に印象的だというだけではない。この知見に大きな価値があるのは、それが示唆することにある。つまり、人間の脳と構造が大きく異なる脳であっても、複雑な認知能力が発達し得るということだ。
この知見は、動物全体の認知力について、より広く理解することに向けて扉を開くものでもある。どうやら、個体識別といった高度なタスクであっても、必ずしも大きな脳や、「人間のような」神経構造が必要というわけではないようだ。
テッポウウオが見ている世界は、人間が見ている世界とは異なる。テッポウウオの視覚系は、3次元の水中生活に適応している。水中から、水面上にいる獲物を見つけるためには、奥行きを知覚したり、照準を素早く合わせたり、動きを追跡したりする優れたスキルが重要だ。従ってテッポウウオにとっては、人間の顔の違いといった微妙な特徴を認識することは、平らな地面を主な生活の場とするほかの動物よりも、実は簡単なのかもしれない。
2016年の研究は、テッポウウオが人間と同じ方法で顔を処理しているのかどうかを厳密に証明するには至っていない。つまり、顔とはこういうものだという「テンプレート」を用いているのか、あるいは、顔をより断片的に分解して処理しているのかは、わかっていないのだ。
しかしいずれにせよ、テッポウウオが視覚的パターンを学習し、それを記憶し、のちに呼び起こすことができるのは明らかだ。これまでは、こうした能力を組み合わせることは、より大きな脳を持つ動物に限られていると考えられてきた。


