経済・社会

2026.02.12 13:30

米気鋭の経済史家が語る「世界経済の見方を変える『スープ的思考』」とは何か?

アダム・トゥーズ|歴史学者、コロンビア大学欧州研究所所長

アダム・トゥーズ|歴史学者、コロンビア大学欧州研究所所長

トランプ関税、超大国デカップリング、経済安全保障......。刻々と変わる世界経済の情勢を、私たちはどう見るべきなのか。


「もはや、世界経済は国民経済ブロックの集積として硬直的にとらえるのではなく、液体的な、動的に循環する構造として理解すべきなのかもしれない。私はこれを──やや比喩的に──『スープ的世界経済』と呼びたい」。『ナチス 破壊の経済』や『暴落』などの著書をもつ気鋭の経済史家で、世界経済と政治の変化を研究するアダム・トゥーズに、世界経済の現在と未来について聞いた。

──まずは、教授が直近のニュースレター「Chartbook 413: The future of the world economy beyond globalization- or, thinking with soup.(グローバリゼーション以後の世界経済の未来──あるいは「スープ的思考」について)」(2025年10月)で提示した世界経済観の含意を知りたい。

世界経済という概念は、時代とともに異なるかたちをとってきた。実態は、ほぼ1000年前のシルクロードの発展、アジアとインド洋における大規模な貿易システムや地中海における小規模な貿易システムといったさまざまなつながりの開拓の時代にまでさかのぼる。

しかし、20世紀を通して私たちが世界経済と呼ぶものはかつてないほど具体化した。私たちが世界とどのようにかかわり、支配し、統治していくかについての考え方にも表れている。そして20世紀半ば、つまり1930年代の大恐慌と第二次世界大戦のころに、世界経済に対する考え方が、国連に似たかたちでつくられたと言っても過言ではないだろう。国連加盟国となるには自国のGDP推計値を提出しなければならず、1940-60年代には国連の統計学者たちが各国のGDP指標を提供することに積極的に取り組んでいた。

私はこれを「レゴ的世界経済」と呼ぶ。つまり、大きな国民経済というブロックが、小さなブロックと組み合わさって全体を形成している。IMF、OECD、世界銀行といった国際機関による標準的な報告や予測の多くは、このような「国家経済の集合体」としての世界経済モデルに基づいている。 

しかし、これが現代の世界経済の実際の動きの多くをとらえているとは言えない。現代の世界経済はある意味、もっと広範囲にわたって浸透する何かでかたちづくられている。それはどこにでもあり、常に私たちに触れているようなものだ。私はこれを比喩的に「スープ的世界経済」と呼ぶ。スープの中では、具材は完全に溶けてはいない。野菜も豆も肉も、それぞれの形をかろうじて保っている。しかし、それらは単なる個体としてではなく、相互に流体的な関係のなかに存在している。

レゴのブロックが「安定した個体の組み合わせ」によって世界を構成するのに対し、スープは「部分的な溶解と再結合」によって世界をかたちづくる。

この転換──世界経済をレゴのようなブロック集合ではなく、「相互接続されたバランスシートの網」としてとらえる視点──こそ、私が繰り返し立ち返る根本的なパラダイム・シフトだ。

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インタビュー=田中賢治 イラストレーション=ジョエル・キンメル PORTRAIT IMAGE : ROBERTO RICCIUTI (GETTY IMAGES)

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