私も、体当たりで取り組むことばかりだった。最初の海外業務は、ヨーロッパでトランジスタラジオを売るための代理店網を構築すること。どの国も新規参入だからルートなどはない。現地で電気店を見つけて、いくらで何を売っているかを調べ、お店の人と仲よくなり、仕入れルートを聞き出す。次に卸店に赴いて関係性をつくり、代理店になってもらえないかと交渉する。
前任者から教わることがあるとしても、「現地の電気店にアプローチする」という程度。担当者を紹介してくれるわけではないから、自分で電気店を見つけるしかない。盛田さんが言う「学校ではない」が当たり前だった。
学校なら先生が考え方を手ほどきし、解き方も教える。成熟した事業なら同じような手取り足取りが成り立つし、一度に大量の新人を育てる場合は効率的だろう。しかし新しいビジネスでは、成功した手順を身につける間に、時代に追い越されてしまう。先人たちの知恵は「考え方」として学び、現在の状況に合わせた「解き方」を探ることが必要だ。解いてみてうまくいかなければ、違う「解き方」を探ることになる。
ヨーロッパでの代理店探しも、「解き方」探しの連続だった。失敗を繰り返しても干されない会社だから可能なことだ。
後述するが、盛田さんは「ビジネスは本質的にうまくいかないもの。たまにうまくいくから面白いんだ」とよく話していた。失敗するのが標準設定。私は事業展開を考えるとき、いまなお盛田さんの声が耳によみがえる。


