経済・社会

2026.01.28 19:00

ダボス・リポート2026 (5)古い秩序はもう戻らない。「ダボス会議」が突きつけた現実と、アートが問いかける「人間の鼓動」

第56回世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)が閉幕した。今年のダボスには130カ国以上から約3000人のリーダーが集結し、過去最多となる約400人の政治指導者、約65人の国家元首および政府首脳が参加した。世界トップクラスのCEOや会長、ユニコーン企業やテクノロジー・パイオニアも顔を揃え、「対話の力」(A Spirit of Dialogue)をテーマに平和や安全保障、テクノロジー、経済成長、人への投資などについて議論を交わした。

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今回のダボス会議で痛感したのは、第二次世界大戦後に築き上げてきた常識や規範、秩序はもはや通用しないということだ。各国のトップは複雑な地政学的背景や緊張関係を露呈し、多くの課題を提起した。米国と欧州の間に生じた亀裂が繰り返し語られ、指導者たちはさまざまな考えを示した。

カナダのマーク・カーニー首相は演説のなかで「世界秩序の断絶、美しい物語の終焉、そして大国間の地政学が一切の制約を受けない残酷な現実の始まり」について語った。

古代ギリシャの歴史家トゥキディデスの警句━━「強者はしたいことをして、弱者はそれを耐え忍ぶ」━━が再び前面に出てきている、と彼は言った。「大国」は経済的統合を武器とし、関税を力とし、金融インフラを威圧の手段にしている。地理的な条件と同盟関係によって自動的に繁栄と安全がもたらされるという、これまでの「安楽な前提」はもはや通用しないと断言した。

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そして、こう続けた。「弱き者の力は誠実であることから始まる」。カナダのようなミドルパワー(中堅国家)は決して無力ではない。人権の尊重、持続可能な開発、連帯、主権、領土の一体性といった価値観を体現し、新たな秩序を構築する能力を持っている。偽りを止め、現実を直視し、共に行動する力。それこそがミドルパワーの主権の源泉なのだと強く訴えた。

古い秩序を手放し、現実を直視せよ。この言葉は、テクノロジーの指数関数的な発展にも通じる。今年のダボスでは、AGI(汎用人工知能)が数年以内に現実のものとなるかもしれないとの予測が語られた。そうなれば、私たちは生きる目的や働く意味を根本から問われるだろう。

2024年にノーベル化学賞を受賞したGoogle DeepMind共同創業者兼CEOのデミス・ハサビスは、自身が登壇したセッションで「(AIの進化による雇用の喪失は)人間の状態や人類全体に何が起こるかという問題よりも、解決が容易かもしれない」としつつも、「新たな答えを見つけられるのではないかと楽観的に考えている」と語った。

「今日私たちが行っている多くのこと、例えばエクストリームスポーツ(離れ技を売りにしている過激なスポーツ)やアートなどは、必ずしも経済的な利益のためだけに行っているわけではない。私たちは意味を見いだし、そうした活動のより洗練されたバージョンが生まれるかもしれない」(ハサビス)

ダボス会議4日目の午後、テスラCEOのイーロン・マスクは壇上からこう呼びかけた。「間違っている楽観主義者でいるほうが、正しい悲観主義者でいるよりも人生の質が高くなる」。

秩序の崩壊を嘆くのか、新たな可能性を描く機会と捉えるのか。どちらを選択するのかは、私たち個々人の意思に委ねられている。

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文/瀬戸久美子 写真/世界経済フォーラム

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