あらゆる会話の根底にある「人間の鼓動」
最終日の朝、私はメーン会場に設置された巨大なインスタレーションの前に立った。アーティスト兼テクノロジストのロネン・タンチュムによる『Human Atmospheres』。世界経済フォーラムの依頼で制作されたこの作品は、参加者の動きに応じて画面に映し出された環境が変わり、人間の存在によって「生きたデジタル生態系」を形作るインタラクティブなジェネレーティブ・アートである。

この作品の前に立ったとき、5日間を通じて初めて私は「ここに在る」という感覚を覚えた。私の後ろを人々が行き交う。今ここに立つ自分と、偶然にも重なり合う通りすがりの参加者が作品のなかで溶け合う。私はこの空間にとって、どのような存在なのか。私という存在はどのように「在る」のか。
世界はノイズで溢れている。会期中のダボスも常に喧騒の中にある。ある者はビジネスセールスに明け暮れ、ある者はコネクションづくりに必死になる。メディアは我先にニュースを報じようと競争に明け暮れる。そんななか、アートに入り込んだ自分を見た瞬間だけは、ダボスの会場に在る自分の鼓動を感じ、自らと対話する余白を持つことができたのだった。
カーニーが語った「誠実さ」とは、自分と対峙することから始まるのではないか。自分がどこに立ち、何者であり、誰とつながっているのかをまず感じること。政策や戦略の前に、自分という存在の鼓動を認識し、思慮深くあること。内省を深めるなかで、世界経済フォーラムでアート&カルチャー部門長を務めるジョゼフ・ファウラーが話していたことを思い出した。
「世界的な不確実性や分断、テクノロジーの急速な進化が特徴的な現代において、対話が分析的なものにとどまれば、それは取引的あるいは防御的なものになってしまう恐れがある。アートはリーダーたちに、真の関与とは単にアイデアを交換することだけでなく、あらゆる決断、あらゆる政策、そしてあらゆる会話の根底にある人間の鼓動を認識することだと気づかせてくれる」(ファウラー)


