AIの安全性とは長らく、正しいことを行い、誤ったことをしないという意味だった。Anthropic(アンソロピック)は、異なるアプローチを試みている。同社がClaude(クロード)向けに新たに公開した憲法は、AIに「避けるべきこと」だけでなく、「なぜ特定の境界が存在するのか」まで教えるものであり、機械の振る舞いを形づくる方法における、微妙だが重要な転換点を示している。
AIアシスタントが機密データの共有を拒否するだけでなく、なぜそうするのかを説明し、プライバシーという人間の根源的価値を理解していると語る場面を想像してほしい。Anthropicの憲法は、AIとそれを使う人間の双方が、世界における目的を理解するために設計された文書である。これは、単にルールに従うだけでなく、そのルールが存在する理由を理解するAIへの重要な一歩であり、AIシステムをブラックボックス的な倫理への懸念から、より可視化されたものへと移行させる助けとなる。
なぜ今、この転換が重要なのか
Anthropicの憲法は、Claudeが相反する優先事項をどうバランスさせるべきかを詳述している。例えば「安全性を損なわずに有用であること」「害を及ぼさずに正直であること」「硬直化せずに従順であること」が掲げられている。憲法は要件を示すだけでなく、なぜ特定の価値観が重要なのかも説明する。
例えば「生物兵器の開発を決して支援してはならない」と言い切るのではなく、生物兵器への支援を、大規模な危害の防止や人類が共有する利益の保護という観点から禁止事項として位置づける。この方法は、人間が倫理を学ぶプロセス——暗記したルールではなく、結果の理解を通じて学ぶ——に通じる。
企業のリーダーは長年、AIの「ブラックボックス」性に苦しんできた。AIが有害な意思決定をしても、経営陣はなぜそうなったのかを説明できない。憲法は、Anthropicが意図するAIの価値観とトレードオフを明示し、企業が自社のガバナンス基準や倫理要件との整合性を評価するための、より明確な枠組みを提供する。企業が監査でき、自社の価値観と整合させられる、AIの行動に関する透明な枠組みをつくるのである。
憲法は実際にどう機能するのか
Claudeの運用に関わる多くの要素と同様、この憲法は英語の自然言語で書かれた文書であり、機械にも人間にも同様に読めて理解できる(全文はこちら)。文書には「主な読者をClaudeとして書かれているため、想定とは異なる読み方になる可能性がある。例えば、アクセスしやすさより正確性を優先して最適化されており、人間の読者には関心が薄いかもしれないさまざまなトピックを扱っている」と記載がある。
憲法は「主流の一般アクセス可能なClaudeモデル」に用いる、生きたトレーニングツールとして意図されている。モデル開発の過程で、Claudeはこれを使って独自の学習データを自ら生成する。例えば、ユーザーが偏った金融アドバイスを求めると、憲法の原則に基づいて、なぜ偏りが有害なのかを「判断」する会話を作成できる。これによりClaudeは、同様のリクエストを厳格にブロックするのではなく、価値観の衝突を推論しながらリアルタイムに対処することを学ぶ。
このアプローチは、従来のAIシステムにおける重大な欠陥を解消する。ルールベースのモデルは、エッジケースで破綻しやすい。医療の助言を決して共有しないよう訓練されたモデルは、命を救う可能性がある場合であっても、患者の症状の説明を明確化することすら拒否しかねない。憲法は、単純なルール順守や厳格なモデレーションルールよりも、人間の幸福を優先するようClaudeを訓練する。Anthropicは、厳格な安全に関する制約を引き続き維持しつつ、価値観が衝突する場面ではより柔軟に推論できるよう、憲法がモデルを助けると強調している。



