細尾:かつて世界最大のシルク大国だった日本には貴重なノウハウがあり、研究者や専門家もかなりいらっしゃる。ただ高齢化が進んでいますので、このノウハウを集結できるのは今がラストチャンスかもしれない。技術やノウハウ、勘や経験に頼っていた部分を、ただ人から人へ受け継ぐのではなく、これをテクノロジーと組み合わせて再設計できないか、というのが、今回の挑戦です。
北野: いずれは「こういうシルクを作りたいなら、こういう成分の桑を蚕に食べさせると良いのではないか」というふうに、蚕に最適な糸を吐いてもらうために必要な条件を、包括的に議論できるようになると思いますよ。
──理想とする糸から逆算して桑畑を造り、蚕を育てていけるようになるわけですね。
細尾:個人的にはそれを他業種・未経験の人にも展開できるようなシステムをつくりたいですね。というのも、今グローバルに展開しているラグジュアリーマーケットだけでも年間約5000トンのシルクの需要があり、価格も上がってきている状態です。市場規模でいえば、KYOTO SILK HUBの生産目標である年間約10トンの繭(シルク糸2トン)でもまったく足りないのですよ。
それに、シルクは「5A」「6A」などとランク付けされますが、糸の「美しさ」って、たった100年ほど前につくられた、均一性や光沢、白さなどの評価基準だけでは決められないと思っていまして。これまでは、効率的な産業資材として見る傾向が強く、どちらかというと多様性よりも均一性が求められてきました。だからこそ、今のようなグローバルサウスの労働集約型になったと思うんですけども、それぞれの糸には違った良さ、個性があるのです。
北野:西陣織の織り方は半導体のようです。仕事柄、半導体の方にはなじみがありますが、複数のレイヤーを重ね、無数の糸を組み合わせていく西陣織のすさまじい多層構造を知り、似ているなと驚きました。両方とも、本質的には積層プロセスなのです。
細尾:確かにそうですね。1匹の蚕が1500メートルの糸を吐き、僕らはその長い糸を設計図にのせて織っていく。シルクって本当に、いい意味で不思議で。桑の葉も、古くはお茶や漢方薬としても使われてきていて、未だいろんなポテンシャルがあります。これからの調査で、糸のみならずその周辺にある可能性も同時に探索することが可能かなと。
北野:土壌は生命体の歴史そのものですし、桑も生物、蚕も生物。その中にまた微生物がいる。これはものすごく複雑な生物連環を扱うプロジェクトです。そこがすごく面白いなと。その過程は長くて複雑な旅路だけれど、それを順番に研究していくことで非常に多くの示唆が得られると思います。


