米国のトランプ政権は23日、国家防衛戦略(NDS)を発表した。米本土防衛とそのための西半球防衛を最重視し、次いでインド太平洋地域における中国の抑止を重視した。ロシアには欧州諸国が、北朝鮮には韓国が正面に立って抑止するよう求めた。陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「(昨年12月に発表された)国家安全保障戦略(NSS)に従ったふりをしているが、実はよく考えられた戦略だ」と評価する。
確かに、NSSは欧州の文明が消滅する可能性に言及するなど、極めて政治色の強い内容だった。「言いたい放題」の内容だったが、米国がやりたいことを実現させる方法についてはほとんど言及しなかった。松村氏は「NDSは優先順位をつけたうえで、具体的な方法にも触れている。実現させる手段としてトランプ政権が重視する『力』を『国際協調』に置き換えれば、民主党政権でも使える戦略だ」と語る。これまで民主党政権であろうと、共和党政権であろうと、一貫した国防政策を求められてきた国防総省による労作と評価できるという。
では、NDSが2番目に重視するとしたインド太平洋の安全保障はどうなるのか。NDSは「トランプ大統領はインド太平洋地域におけるdecent peace(まずまずの平和)を明確に望んでいる。そこでは貿易が自由かつ公正に行われ、我々全員が繁栄し、我々の利益が尊重される」と記している。「国防総省は、中国当局にそのビジョンと意図を伝える」とも説明した。 同時に、アプローチとして「インド太平洋地域における中国を対立ではなく力で抑止する」とした。そのため、九州から沖縄、台湾、フィリピンを経て南シナ海を囲むように延びる第一列島線に沿って強力な防衛ラインを構築するとしている。ただ、NDSには「台湾」への言及は一切ない。
松村氏はこうした表現について、まさに台湾有事の際、米国が軍事介入するかどうかを明確にしない「あいまい戦略」を具現化したものだと指摘する。中国は、台湾という言葉がないことから、トランプ政権は台湾防衛に関心がないと判断することもできる。同時に、「第1列島線で強力な防衛ラインを敷く」としたことは、台湾有事への軍事介入の決意を示したものだと受け取ることも可能だ。
そのうえで、松村氏は「まずまずの平和」という表現について「多少、紛争が起きても米国の利益を大きく侵害するものでなければ、目をつぶるというようにも読める」と指摘する。NDSは「対立ではない、力による抑止」と「米国、中国、その他の地域国すべてがまずまずの平和を謳歌できる勢力均衡」をうたっており、米中による武力衝突をできる限り避けたいという意思も透けて見える。松村氏は米国の姿勢について「中国と台湾が本格的な戦争状態に陥らなければ構わない。認知戦や経済的な圧力などで統一を強制することには反対しないとも読めるのが懸念材料だ」と語る。



