一方、日本は韓国や欧州諸国とは異なり、インド太平洋で米国の経済的利益を守るための要の国としての「栄」に浴した。NDSは第一列島線の防衛のために「同盟国と緊密に連携し、地域のパートナーたちが共同防衛のためにより多くの行動を起こせるよう、インセンティブを与え、支援する」としている。松村氏は「NDSは、米国の安全保障のために、日本は欧州や韓国よりも重要な存在だと位置づけており、むしろカナダやグリーンランドと似ているのかもしれない」と指摘する。
松村氏が指摘するように、NDSはNSSと異なり、国防総省の官僚や軍人たちが知恵を絞り、できるだけ政治的な思惑を排除して作られた文書と言える。逆にみれば、ほとんど独裁政治を敷いているトランプ大統領の意向次第で、日本の立場は大きく揺さぶられるだろう。状況次第では、「台湾は日本が前面に立って守れ」とも言い出しかねない。
また、トランプ氏は「私に国際法は必要ない。私を止められるのは、私自身の道徳観と心だ」と語る。米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院(SAIS)のエリオット・コーエン名誉教授はトランプ氏について「共通の理想や原則にほとんど価値を見出さず、強い同盟がもたらす長期的な利益を理解していない。米国はならず者国家になったわけではないが、トランプ氏はある意味、ならず者大統領と言えるかもしれない」と語る。
カナダのカーニー首相は20日、スイス・ダボスでの演説で、米国を名指しこそしなかったが、「大国は経済的統合を武器として、関税をてことして、金融インフラを強制手段として、サプライチェーンを付け込むべき脆弱性として利用し始めている」と語った。「カナダ国民は、これまで当然のものと考えてきた、地理的条件や同盟への加盟が自動的に繁栄と安全保障をもたらすという前提が、もはや成り立たないことを理解している」とも述べた。そのうえで、中堅国が結集し、法の支配に基づく国際秩序を守っていくべきだと訴えた。トランプ氏は24日、カナダが中国と貿易協定を結んだ場合、カナダからの輸入品に100%の追加関税を課すと警告した。
松村氏は「個人的にはカーニー氏の演説に共感するが、そこに向かう道筋をどう描くかが問題だ。道筋の過程で、日米が決定的に対立することは避けなければならない」と語る。カーニー氏は演説で、かつてのチェコの反体制派政治家バーツラフ・ハベル(後の大統領)による著書「力なき者たちの力」の言葉を引用した。同書では「八百屋の主人が身の安全を守るため、信じてもいない『万国の労働者は団結せよ』という看板を毎日、店頭に出してソ連や旧チェコスロバキアの共産主義政権に迎合していた」という逸話を紹介している。戦後の主要なシステムを米国につくってもらった日本も「八百屋の主人」になるしかないのかもしれない。


