サイエンス

2026.01.28 18:00

凍った湖で、数カ月間も酸素なしで生き抜く魚「ヨーロッパブナ」

Shutterstock.com

Shutterstock.com

酸素が欠乏すれば、たいていの脊椎動物は、もう死ぬしかない──魚だってそれは同じだ。酸素がないと、脳はものの数分で機能が停止する。細胞はエネルギーを作り出すことができなくなり、主要な組織は回復不能な損傷を受ける。

ところが、ほぼすべての動物が死んでしまうような状況下でも生き永らえる、小型の淡水魚が存在する。

それは、ヨーロッパブナ(学名:Carassius carassius)を含むフナ属(Carassius)だ。彼らは、冬の何週間、それどころか何カ月間も、氷に閉ざされた湖の中に閉じ込められたまま、酸素がない状態で生き延びることができる。以下では、研究をもとに、その謎を探っていこう。

酸欠でも生き延びられる仕組み

実験生物学ジャーナル『Journal of Experimental Biology』で2004年に発表された研究によると、フナは、冬季に凍ってしまうことの多い欧州北部やアジアの湖沼に生息している。水面に氷が張り始めると、大気と水の酸素交換が停止する。そして、微生物やその他の生命体が呼吸を続けていくうちに、水に溶存している酸素の濃度は低下し、最終的にはゼロになってしまう。

真冬になるころには、その水域は完全な無酸素状態になる。酸欠になれば、酸素を必要とする好気性代謝ができなくなり、もはや生きられない。たいていの魚は、ほかの場所に移動するか、窒息して死んでしまうかのいずれかだ。しかし、フナは違う。どういうわけか、氷の下でも活性を維持し、時には何カ月もの間、春の訪れを待つのだ。

ほとんどの動物の場合、酸素は、ミトコンドリア呼吸における電子の最終的な受容体だ。酸素がなければ、電子伝達系が停止され、エネルギー源であるATP(アデノシン三リン酸)の産生が停止し、細胞は嫌気的解糖(anaerobic glycolysis)という状態に追い込まれる。このプロセスでは、エネルギーがほとんど得られない上に、有害な副産物が急速に作られてしまう。

ほとんどの哺乳類は、嫌気性の代謝が長く続くと、乳酸が蓄積されて、乳酸アシドーシス(血液が酸性に傾く状態)や臓器不全が起き、最終的には死に至る。たとえ低酸素に耐性を持つ種であっても、酸素のない状態が長く続けば、生き延びることはできない。

この常識を、ほかのどの脊椎動物も恒常的には不可能な方法によって打ち破っているのがフナ属だ。嫌気性代謝が続いている間も乳酸を蓄積させず、それをエタノール(エチルアルコール)に変換しているのだ。

この驚くべき代謝経路は、1980年に『Science』誌に掲載された研究で初めて報告され、のちに分子的研究と酵素の研究で解明された。この研究をもとに具体的に説明すると、フナ属は、酸素が失われると、糖が分解された時に作られる最終産物が乳酸として蓄積されないよう経路を切り替える。そして、改変されたミトコンドリア酵素を用いて、エタノールが生成されるようにするのだという。

生成されたエタノールは、エラを通じて周囲の水中へと放出される。要するにフナは、有害な代謝老廃物を拡散性の物質に変えて、体外に流しているのだ。この時の生化学的なロジックは、酵母が発酵する場合と同じだ。フナは、長期的に生き抜くためにこの戦略に依存している、知られている限り唯一の脊椎動物だ。

次ページ > 酸欠状態で、実際にどのくらい生き延びられるのか

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事