経済・社会

2026.01.30 09:45

【SIIF古市奏文寄稿】「文化資本」をインパクトからとらえ直す

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文化資本は「非財務資本のひとつ」

では、そこではどのような考え方が必要になるでしょうか?

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私の提案は、「インパクト投資の考え方を活用して、ビジネスにおける考え方やマネタイズのあり方に人的資本、社会関係資本、自然資本、知識資本といった『非財務資本』を価値として組み込むこと」です。

文化資本は、教育、ジェンダー、地域振興、精神的ウェルビーイングなど、さまざまな社会的インパクトと密接に関係しています。そしてその多くは、金銭的な価値に換算しづらい「非財務資本(non-financial capital)」として存在しています。非財務資本は、企業や社会の持続可能性を支える重要な基盤です。しかし、従来の財務的評価軸では十分に捉えられてきませんでした。

文化資本もまた、この非財務資本の一つとして位置づけられます。たとえば、地域の祭りが若者の定着や多世代交流につながったり、伝統工芸が障害者雇用や女性の活躍を生み出したりすることは、文化が持つ社会的影響力を示すものです。これらは非財務的ながらも価値のある社会的成果であり、インパクトとして可視化・評価されるべきです。

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さらに言えば、文化資本は他の非財務資本と比べても特異な優位性を持っていると考えられます。自然資本や社会関係資本などは、完全には目に見えにくく、数値化や概念化が難しい一方で、文化資本はそれらと密接に関わりながらも、実際の商品や人工物、あるいは制作行為として「形」になって現れ、人間の行動にインタラクション(交流)を生み出します。

たとえば、日本の寿司文化は世界的に認知され、尊敬される存在となっていますが、それを支えているのは豊かな海洋環境という自然資本です。「自然を大切に」と言われたとき、多くの人が抽象的なイメージしか持てないかもしれません。しかし、「このままでは世界で最も美味しい寿司が食べられなくなる」と聞いたとき、自然の大切さが具体的な体験として私たちに迫ってくるのです。

このように、文化資本は単独で価値を持つだけでなく、他の非財務資本を「感じさせる装置」としても機能します。文化は人々の共感や関心を引き寄せる力が強く、それが結果として、自然資本や社会関係資本、人的資本などの持続可能性への理解や行動につながっていくのです。

インパクト投資は、非財務資本をこれまでの投資やビジネスの世界観に組み込んで、拡大・アップデートする可能性を持っています。金銭的なリターンだけでなく、文化的・社会的なリターンも考慮しながら複合的に成果を追求する投資が広がれば、文化を担うプレイヤーたちが本当の意味で成功できる世の中になり、日本の未来における明るいトピックの一つになるでしょう。文化資本を「意味のある社会的投資対象」として再定義することは、文化の持続可能性だけでなく、社会全体の豊かさを測る別の軸を持つことにつながっていきます。

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