カナダから移住し、時給約465円の仕事から経験を積む
最も強い愛国心を抱くのは、生まれながらの米国人ではなく、帰化した人々だといわれるが、マクニールもその1人だ。1959年にカナダで生まれた彼の母親は、イリノイ大学で小児看護学を教える教員で、生後1年にも満たないマクニールを連れて米国にわたり、シカゴの郊外で暮らし始めた。
母はまた、仕事への向き合い方を彼に教えた。「子どもの頃の私は『起業家精神』なんて言葉すら知らなかったが、どんな仕事もきちんとやり遂げるという姿勢だけは身に付けていた」とマクニールは振り返る。高校時代の初仕事は、時給3ドル(約465円)のガソリンスタンドの店員だった。その後は、タクシーやリムジンのドライバーとして働き、機械工や自動車販売員としても経験を積んだ。やがて自動車エンジニアリング会社AMGで営業担当副社長に就き、その後は自らクラシックカーのディーラーを立ち上げた。
「私は、米国のマッスルカー全盛期に育った。かっこいい連中は、決まってかっこいい車に乗っていた」とマクニールは懐かしむ。1976年、彼は300ドル(約5万円。現在の価値で約1700ドル[約26万円])で、1968年式のシボレー・インパラの2ドア車を購入した。エンジンが焼き付いていたため、廃車置き場で100ドル(約2万円)で手に入たエンジンと交換した。大学でレースにのめり込んだ彼は、国際自動車連盟(FIA)のブロンズランクのドライバーでもある。末息子クーパーは元プロレーサーで、引退後は兄姉とともにWeatherTechで働いている。
1989年の妻との旅行がきっかけ、WeatherTechの事業を思い立ち成功へ
マクニールがWeatherTechの事業を思い立ったのは、1989年に妻と旅行で訪れたスコットランドでのことだった。現地で借りたレンタカーでドライブしている途中、足元のフロアマットに、泥や雪で車内を汚さないようにするための、溝が刻まれていることに気づいた。米国では見たことのない仕様だった。彼はそのブランド名をメモして旅を続けたが、そのマットのことが頭から離れなかったという。
「私がフロアマットの話ばかりするから、妻には変な目で見られた」と彼は笑う。「でも私は、この製品は米国でも人気になると思っていた」。
帰国から1週間後、マクニールはそのメーカーの英国企業キャノン・ラバーに電話をかけ、北米での販売代理店の権利を得た。キャノン側は前払いを条件としたため、彼は自宅を担保に入れて5万ドル(約775万円)を借り入れ、コンテナ1台分のマットを仕入れた。マクニールの読みは当たった。地元のディーラーを回って売り込みをかけ、自動車雑誌に広告を出したところ、最初の1カ月で3万ドル(約465万円)相当を売り切った。2年も経たないうちに、事業は黒字化した。
しかし2007年、マクニールが欠陥品だと主張したマットをめぐって、この提携関係は破綻した。その後、彼はキャノンとの関係を断ち、自らマットの製造に乗り出した。当初は製造を外部の業者に委託した。
約6億2000万円を投じたスーパーボウル広告で、全米でブランドイメージを確立
次にマクニールが取り組んだのが、ブランドイメージの確立だった。その当時、WeatherTechのテレビ広告を手がけた広告代理店ピナクルのデイブ・ソリットは、「新車は、多くの人にとって人生で最も高額な買い物の1つだ。だからこそ、オーナーは車内をきれいに保ちたがる」と語る。
そのような考えをもとに制作された最初のテレビCM3本は、わずか5万ドル(約775万円)で制作されたが、内容は明快だった。こぼれたコーヒーや、泥だらけの足で車内に入り込む犬といった、新車を台無しにしかねない「惨事」を次々と描いたのだ。このCMが最初にオンエアされた4つの市場では、1カ月で売上が約250%増加した。
2014年、マクニールは同社初となるスーパーボウルのCMに400万ドル(約6億2000万円)を投じるという大きな賭けに出た。「誰もが名前を知るブランドを目指すのであれば、すべての家庭に魅力をアピールしなければならない」と彼は語る。
その数年後、マクニールは自動車分野以外にも事業を広げた。WeatherTechはやがて、キッチンやバスルーム向けのマット、ブーツトレー、コースター、タブレットホルダー、ペット向けステンレス製食器まで扱うようになった。ペット用品にまで手を広げた背景には、海外製の一部ペット用給餌器から微量の放射性物質が検出され、2012年には大手ペット用品店でリコール騒ぎになったことが挙げられる。「我々は、自社の製品でこの問題を解決しようとした」とマクニールは語る。
WeatherTechは現在、年間1億ドル(約155億円)以上をマーケティングに投じており、地元シカゴの高速道路沿いの屋外広告に注力している。調査会社MediaRadarによると、同社のシカゴ市内における屋外広告費用は、イリノイ州に拠点を置く企業の中で、6番目に多いという。
「米国で最も愛国的なブランド」ランキングで、24位に
これに加えて、今や毎年恒例となったスーパーボウルのテレビCMには、平均800万ドル(約12億4000万円)を費やしており、星条旗に象徴される米国的なイメージやメッセージを前面に打ち出している。そこにはマクニールの愛犬も登場する。
WeatherTechは昨年、ブランド調査会社Brand Keysが発表する「米国で最も愛国的なブランド」ランキングで、24位に選ばれた。マーケティング業界のベテランのピーター・マクギリヴレイは、「彼らのブランドの打ち出し方は、とても巧みだ」と評価する。WeatherTechは、車好きの層と一般ドライバーの両方に訴求できる点で、競合他社とは一線を画しているという。「彼らはメインストーリームのブランドに浮上した」とマクギリヴレイは語った。
マクニール、「我々が目指すのは安さではない。卓越性だ」
もっとも、国内製造にこだわるWeatherTechの製品は決して安くはない。米国で最も売れている車種であるフォードF150向けの同社のフロアマットは、140ドル(約2万円)で販売されている。
「この製品にどれだけの手間と技術が注ぎ込まれているかを理解すれば、むしろ割安だと思えるはずだ」とマクニールは語る。WeatherTechは、レーザーを用いた精密設計や射出成形による金型技術で、高品質で無臭のゴム状ポリマーを使った製品を製造している。従業員の賃金は中国の競合を大幅に上回り、初級職で時給約22ドル(約3410円)、熟練職では30〜35ドル(約4650円~約5425円)に達するという。「我々が目指すのは安さではない。卓越性だ」とマクニールは述べている。マクギリヴレイもこれに同意しており、WeatherTechの製品を「業界のゴールドスタンダードだ」と評している。


