トランプはほぼ予想を裏切らなかった。1時間半、延々と話し続けたことを除けば。
世界経済フォーラム年次総会(通称「ダボス会議」)も3日目を迎えた。米ドナルド・トランプ大統領の演説を前に、会場のロビーはこの目でトランプを見ようと多くの参加者でごった返していた。一度外に出れば、セキュリティチェックでしばらく戻れなくなるかもしれない──周囲からのアドバイスを受けて、私はすでに入っていたいくつかの取材アポを断念した。この日のダボスは、すべてがトランプ中心に回っているかのようだった。
「美しいスイス・ダボスに戻ってきて、尊敬すべきビジネスリーダー、友人、少しの敵、すべての名誉あるゲストにお話しできることをとても嬉しく思う」
冒頭でこう切り出したトランプは、ダボスの壇上で「勝利宣言」とも取れる発言を繰り返した。バイデン政権下の「悪夢」から米国を救い出し、経済を劇的に回復させた。規制を撤廃し、減税を断行し、空前の投資を呼び込んだ。株式市場は最高値を更新し、国民は豊かになった──トランプの自賛は止まらない。いつものことだ。
彼の野心はもはや国内にとどまらない。「国家安全保障上の必要性」から「大きな氷の塊」(注・トランプが用いた表現)であるグリーンランドの割譲を公然と要求し、NATO諸国には防衛費負担の不公平さを訴え、欧州各国にはグリーンエネルギー政策の失敗を強く批判した。
トランプ外交の本質はパワー(力)とディール(取引)にある。同盟国であろうと容赦なく要求を突きつけ、従わなければ関税という「武器」をちらつかせる。彼の発する一言一言が、世界秩序の地殻変動を実感させる。
しかし同時に、ダボスでは対照的な物語が進行していた。トランプが力と取引を誇示する一方で、もう一人のアメリカ人は慈善活動を通じて世界を変える決意を表明していた。米マイクロソフトの共同創業者、ビル・ゲイツである。
ゲイツ財団とOpen AIが共同でアフリカの医療を「AI化」
ダボスに来る直前、私は世界経済フォーラムでヘルスとヘルスケア部門長を務めるシャム・ビシェンにこんな質問を投げかけていた。「ビル・ゲイツのような成功した起業家によるフィランソロピー(慈善活動)は、健康格差の解消において重要な役割を果たしていると思うか」。
この問いに対するビシェンの答えは「フィランソロピーが健康格差の解消に重要な役割を果たすことには同意するが、その価値はどのように活用されるかによって変わる」というものだった。
「適切に活用されれば、イノベーションを促進し、新たなアプローチのリスクを軽減し、健康格差を縮小する原動力となり得る。重要なのは、フィランソロピーが意味を持つかどうかではなく、健康の公平性を追求する上で、それがどのように運営され、調整され、説明責任を果たしているかという点だ」
叶うことなら、ダボスでフィランソロピーの適切なあり方を目の当たりにしたい──。「ダボス会議」3日目の朝、そんな願いがまたとない形で実現した。
21日の10時過ぎにスタートしたセッション「At the Cusp of Healthcare for All」(すべての人のための医療の岐路で)。ビル・ゲイツ、ルワンダのICTイノベーション大臣のポーラ・インガビレ、グローバルファンド事務局長のピーター・サンズが登壇し、アフリカを中心とした新興国におけるAIと保健医療の融合について議論がなされた。



