コペンハーゲンのレストラン、「ノーマ」のオーナーシェフ、レネ・レゼピは、2011年、食のシンポジウム「MAD」をスタートした。MADはデンマーク語で「食べもの」の意味だ。
2025年5月、コロナ禍を経て7年ぶりにその第7回が開催された。タイトルは「Build to Last(=長保ちするようにつくられる、というような意味)」。地球環境を守り、地域社会を繁栄させ、一人ひとりがキャリアを通じて健康かつ創造性を維持するためにはどうしたら良いかがテーマとなった。

参加して強く実感したのは、飲食関係者が集い、心を開いて語りあう場所としての重要性だ。2日間のシンポジウムの最後には、参加者全員が20人ずつほどのグループに分かれ、今回のシンポジウムで感じたことを自由に話し合う場がつくられた。
そこで、自分で店を営業しているという男性シェフは、「週末や夜、家族との時間が取れなくて辛い」と涙ながらに語っていた。シチュエーションによっては「飲食業だから当たり前だろう」とか「その仕事を自分で選んだのだろう」と批判される可能性もあったかもしれない。でも、そこにいた誰もが、同じ痛みを共有し、思いを吐き出した彼に共感の言葉やアドバイスを伝えていた。
レストランというのはフォーマルな場だ。シェフや料理人はコックコートに身を包み、スタッフもユニフォームで仕事に徹する。服装は人をその立場として定義づける。
しかしこのMADではそうではない。コペンハーゲン郊外、ウッドチップが敷かれたテントサイトで、ノーマのチームと、ノーマと関わりの深いレストランが共同でつくるシェアスタイルの朝食やランチを大きな長テーブルを囲みながら食べる。皆が肩書を外した人と人として向き合っていた。
2日間で行われた19のトークから、2つを紹介したい。それは、多くのメディアや偉大なシェフの成功談からは見えてこなかった、影の部分ともいえるかもしれない。



