一つ目は、元薬物中毒患者だったミッキー・バックスト氏が設立した「ベンズ・フレンズ(Ben's Friends)」について。
バックスト氏は元々アメリカでコカインの売人をしていて、自身でも使用して中毒になって死にかけた経験を持つ。1982年、医師から「次にアルコールか薬物を摂ったら死ぬ」と言われたことで心を入れ替えた。
同時に気づいたのは、この問題で苦しんでいる人がいかに多いかだ。飲食業界ではストレスなどからアルコールの依存症になる人が多く、問題視されている。しかし、レストランのオーナーを務める友人、スティーブ・パーマー氏と業界の友人知人の依存症について語ることはあっても、それぞれに毎日の仕事で忙しく、どうアクションを取れば良いのかもわからなかった。

そんな時にパーマー氏のレストランをいくつも立ち上げたシェフ、ベン・マーレー氏が、2016年にアルコール依存症で自殺してしまう。彼の苦しみに寄り添えなかった後悔をきっかけに二人が設立したコミュニティが「べンズ・フレンズ」だ。アルコールや薬物の依存に苦しむ人々にサポートのための面談を、対面とオンラインで行う。今は全米26カ所に支部をもち、問題を抱えた人々を受け入れる居場所づくりは広がりを見せているという。
「かつてはアメリカではアルコール依存などの問題のある従業員を解雇していたが、今は多くのレストランが人事担当者を雇い、彼らを通して、従業員の悩みを聞くなどコミュニケーションをとる。それ以外にも、社内にヨガやマラソンなどの健康的な趣味のグループをつくったり、週末の仕事終わりに質の高い賄いをだし、自宅に戻ってアルコールや薬物に手を出すことのないように工夫するようになった」とバックスト氏。
しかし、アメリカでは依然(飲食業界に限らず)12歳以上の約17%が今もアルコールや薬物の依存症に苦しんでいるという。「変化は十分な速さで起きてはいない。ここに来る飛行機に搭乗する直前に受け取ったメッセージは、関わっていた人が最終的に依存症で亡くなったという知らせだった」と現実を語る。
飲食業界は、食材にこだわるのと同じように、働く人の健康についても考えるべきだ。バックスト氏はそれがサステナブルな業界の未来につながると訴えかけた。


