「システムチェンジ投資」という視座
こうした問題意識のもと、近年注目されているのが「システムチェンジ投資」です。これは、社会・環境課題を生み出す構造的要因に対し、「システム思考」を活用してアプローチしようとする試みです。グローバルにおいてもその定義はまだ定まっていませんが、私たちSIIFでは、現時点でのワーキング・デフィニションとして、次のように捉えています。
社会・環境の課題を根本的・構造的に解決する「意志」と、解像度高くシステムを俯瞰し課題の真因を探究する「学習」に基づき、資金提供に留まらない「多様なアプローチ」を結集させ、システムの変容を促す行為。
目に見える課題、いわゆる「end of the pipe problem」ではなく、その背後にある構造的要因、すなわち「root cause」へと踏み込むことは、インパクト投資にとって新たな未踏領域です。こうした方向にインパクト投資をアップデートしていくことは可能なのでしょうか。その問いに対する示唆として、現在、2つの重要な動きが見られます。
金融システムからのアプローチ
ひとつ目は、投資家が自ら属する金融システムのルールや規範に働きかけることで、社会・経済システム全体に変化をもたらそうとする「金融システムからのアプローチ」です。
例えば、米国カリフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTRS)は、受託者責任の遵守を前提としつつ、アセットオーナーとしての影響力を活用し、持続可能なビジネス慣行や公共政策の推進を掲げています。米連邦取引委員会(FTC)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、米証券取引委員会(SEC)などの規制機関との対話を通じ、市場の安全性や透明性を高めるための規制や情報開示基準の改善を提唱してきました。
また、米Wespath Benefits and Investmentsは、責任投資原則(PRI)の共同執筆者・設立署名者としてアセットオーナー間の連携を牽引してきたほか、ネット・ゼロ・アセットオーナー・アライアンス(NZAOA)の立ち上げにも参画し、アセットマネージャーの行動変容を促しています。
こうした動きの背景には、社会・環境課題の解決に向けた意図に加え、中長期的な投資リターンを毀損しかねない「負の市場外部性」への対応という切実な問題意識があります。従来は、市場の外部とみなされてきたシステムレベルのリスクが、いまやポートフォリオ全体のパフォーマンスを不安定化させる主因となりつつあります。その結果、手元にあるポートフォリオの銘柄入れ替えだけでは不十分であるという認識が広がっています。


