深澤直人、佐藤オオキ。彼らのように、日常を豊かに彩るモノを生み出したい。そう憧れる若者は少なくない。ただ、プロダクトデザイナーへの道は想像以上に険しい。試作には資金がいる。発表するには出展料がかかる。作品を世に問う前に、財布が音を上げてしまう。
2025年11月、東京・日本橋で初開催された「alter. 2025, Tokyo」は、この構造を逆転させた実験的イベントだ。MoMA(ニューヨーク近代美術館)やポンピドゥー・センターのキュレーターといったグローバルなコミッティメンバーによって選抜されたプロジェクトに、最大300万円の制作助成金を支給。35歳以下の若手クリエイターを対象に、資金の心配なく試作に挑み、世界水準の目に触れる機会を提供した。
11組のプロジェクト、59人のクリエイターによるプロダクト展示、トークセッションなどが行われ、エッジの効いた来場者で賑わった3日間。その初日には、コミッティーメンバーによるトークセッションが開催された。彼らはこの取り組みにどう関わり、何を語ったのか。
「クリエイターたちのアプローチの多様性に驚きました。そしてプロジェクトのコンセプチュアルな性質。どれも従来のプロダクトデザインの境界を越えている。それこそ、私たちがalter.のプロジェクト選考で探していたものです」
MoMAで建築・デザイン部門のキュレーターを務めるターニャ・ファンが口火を切った。その後、ポンピドゥー・センターのオリヴィエ・ゼトゥンが続く。
「ほとんどのプロジェクトが、プロダクトそのものと同じくらい、その背後にある方法論やナラティブを見せていたことは評価に値します。素材への感度、サプライチェーンの分析、モノの背後にあるシステムへの眼差し。選考の議論でも、私たちはまさにこの視点を求めていました」
彼らが共通して指摘したのは、alter.の出展作が「モノ」だけで完結していないということだった。素材がどこから来て、誰の手を経て、どんな意味を帯びるのか。そのプロセス全体が、作品として提示されていたという。ワインの味わいが、ブドウの品種だけでなく土壌や気候、醸造家の哲学まで含めて語られるように。
デザイナーが直面する「見えないハードル」
話題が現代のデザイナーが抱える課題へと移ったとき、「もはや美しさと機能だけを考えていては不十分です。デザイナーは製品のライフサイクル全体を考えなければならない」と、最初に環境問題を挙げたのはMoMAのファンだった。彼女はクラフツマンシップの危機にも言及した。



