MoMAのファンとポンピドゥーのゼトゥンが揃って挙げたのは「HAMA Reimagined」。陶磁器を焼く際に使われ、通常は廃棄される「ハマ」という台座を再利用したプロジェクトだ。
ファンは「見過ごされていた副産物を美しく機能的なモノに変える。しかもモジュール式で、さまざまな構成が可能。ローカルな伝統に根ざしながら、手法は他の文脈にも応用できる」と評した。ゼトゥンは「小さな、見過ごされたモノから、どれだけ多くの応用が生まれるか。そのスケール感に惹かれた」と、着眼点の違いを見せた。
ヴァリエールが推したのは「ALL CLAMP」。異なる素材を接続できる金属製のクランプで、ユーザー自身が家具を組み立てられるシステムだ。
「デザイナーだけでなく、使う人もデザイナーになれる。創造性と主体性を、モノを使う人に渡している。しかも軽くて小さいから、世界中どこにでも安く送れる」
アムステルダムを拠点に素材研究と文化的リサーチで国際的評価を得るデザインスタジオ、フォルマファンタズマのシモーネ・ファレジン(事前コメントで参加)も同じくALL CLAMPを評価した。
「若いデザイナーたちが、伝統的な木工にまったく新しいスピンをかけた。建設現場にあるような未完成の素材を使って、椅子やランプを作っている。アプローチには荒々しさがある。なのに結果は驚くほど洗練されている」
中村は「Unseen Objects」を選んだ。鋳物の製造過程にある偶発的な造形や治具という、鋳物文化の裏側にフォーカスをあてたプロジェクトだ。「伝統的な技法にハイライトを当てながら、ミニマルでシンプル。背景には社会的な問いがある。華美な展示が並ぶ中で、このプロジェクトはデザインの本質に向き合っていると感じました」。
5人の選択に共通するのは、「廃棄されるもの」「見過ごされるもの」への眼差しだ。新しい素材を発明するのではなく、すでにあるものの価値を再発見する。それが、今デザインに求められている態度なのかもしれない。
イノベーションとは、ゼロから何かを生み出すことだけではない。既存のものに光を当て、文脈を変えることでもある。多くの企業が抱える「廃棄物」や「副産物」こそ、実は眠れる資産なのかもしれないという発想だってありうる。


