「伝統的な工芸技術は、産業化以降ずっと圧力にさらされてきました。若い世代にとって、工芸は必ずしも魅力的なキャリアには見えないかもしれない。反復的な労働には時間がかかり、収入も不安定です。でも、工芸には持続可能性の知恵が埋め込まれている」
インスタグラムのリールよりもYouTubeの長尺動画、ファストファッションよりも一生モノの革靴。Z世代の一部に芽生えている「遅さへの回帰」は、もしかしたらクラフト志向と、どこか通じるものがあるのかもしれない。
さて、このクラフツマンシップをめぐる日本固有の状況について語ったのが、空きビルを活用した実験的アートスペースを運営するSKWAT代表の中村圭佑だ。
「日本のデザイナーは新素材の探索に熱心です。でも本当に大事なのは『見過ごされているもの』を発見すること。家のなかを見回せば、見落とされたものがたくさんある。それを掘り起こし、変換する。そこに価値が生まれるんです」
世界中のデザイナーやクラフツマンを取材してきたメディア「SAY HI TO_」を主宰するクリステン・ド・ラ・ヴァリエールは、別の壁を指摘した。
「日本のデザイナーや職人に取材すると、必ず『暗黙の境界線』の話が出てきます。あなたは職人なのか、プロダクトデザイナーなのか、アーティストなのか。その交差点を見つけるのが難しいと」
資金、発表の場、職業の定義。若いつくり手たちを取り巻くハードルは複合的だ。alter.が試みたのは、これらを一度に取り払うことだった。助成対象とした11組のプロジェクトでは、「プロダクトデザイナー」という肩書きに縛られないチーム編成を推奨。異分野のクリエイターが組んで出展する形式が、職業の壁を溶かす仕掛けとして機能した。
5人が選んだプロジェクト、その着眼点
セッションの後半、キュレーターたちはそれぞれ注目したプロジェクトを挙げ、選んだ理由を語った。
ここで彼らの共通したバックグラウンドを押さえておきたい。5人はいずれも、デザインを「社会システムのなかに位置づける」仕事をしてきた人たちだ。美術館のコレクションに作品を加えるとき、彼らは「これは美しいか」だけでなく「なぜ今、これが必要か」を問う。だからこそ、alter.の審査員として招かれた。彼らの選択には、現在のデザイン界が直面する問いが映し出されている。


