「ビジネスは、たまにうまくいくから面白い」
盛田さんは何事においても基本的にマイナス思考だった。極端にいえば何事も"うまくいかない"前提で考えるのだ。
だからといって、ネガティブ思考ではない。たとえば、テニスのゲームでミスショットした場合。ふつうなら「さっきのミスショットで負けてしまうかも」とネガティブに発想する。盛田さんは「さっきのミスショットを挽回するにはどうすればいいか」とすぐプラス発想に転じて粘り強くプレーできた。
ビジネスでも同じだ。盛田さんの口癖の一つに「ビジネスではフェア精神なんてダメだ」というものがあった。詳しく聞いたことはないが、よほど手痛い目に遭った経験があるのだろう。それは私も海外での経験でよくわかった。"日本人的なフェア"は、海外ビジネスでは通じないのだ。
しかし、盛田さんは怯んで後ろ向きになっていたわけではない。マイナス思考ではあったが、いや、マイナスからのスタートだったからこそ、さまざまな可能性を想定し、常に最善を尽くすことを心がけていた。
社員に対しても、何かチャレンジをした結果の失敗なら決して責めなかった。むしろ失敗を恐れてチャレンジしないことを叱責した。これは井深さんが技術者たちに接する姿勢とも共通していた。
盛田さんはよく、こんなことも言っていた。
「ビジネスというのは本質的にうまくいかない。でも、たまにうまくいくことがあるから面白いんだ」
ビジネスは販売が基本だ。開発・製造したモノを売ってこそ事業は前に進む。そして事業の結果は数字がすべて。最初から100%はあり得ない。しかし仮に打率3割として、「3割しか成功していない」とネガティブに受け止めるか、「3割も成功している」とポジティブに受け止めるかの違いは大きい。「3割しか」と思えば、意気消沈して撤退を考えるかもしれない。しかし「3割も」と思えるなら、3割1分、2分と少しずつでもアップするにはどうすればいいか考え、工夫するだろう。それが仕事の面白さ、やりがいにつながるということだ。
確かに厚木工場時代のビジネスはうまくいっていた。アメリカのテレビ業界で最も権威あるエミー賞を技術部門で受賞したこともあるし、社長賞も何度かいただいた。賞をいただくのは名誉なことだし、技術が認められればスタッフの励みにもなった。
しかし私自身は正直なところ、そんな賞よりきちんとモノが売れて、お客さんが喜んでくれることのほうがうれしかった。日々の積み重ねが、私たちチームの打率がアップしている証しだと思っていたからだ。


