このニュースを聞いた瞬間、“ついに来た”という感慨が浮かび上がった。驚きよりも、予想されていた結末に近づいたときの、静かな安堵感に似ている。
2026年1月20日、ソニーとTCL Electronicsは、ソニーのホームエンタテインメント事業──テレビとホームオーディオを核とする領域──を対象に、合弁会社(JV)設立へ向けた覚書(MOU)を結んだ。TCLが51%、ソニーが49%。製品開発・設計から製造、販売、物流、顧客サービスまで、バリューチェーンを丸ごと新会社へ移し、各国規制当局の承認を経て2027年4月の事業開始を目指す。
「Sony」と「BRAVIA」のブランドを冠した製品は、引き続き新規設立されるJVが販売を継続する。
ここだけを切り取れば「ソニーがテレビを手放した」とシンプルな話だが、それは本質ではない。テレビ受像機の事業環境が変化した現代において、ソニーが選んだ“生存の形”が今回のJV設立なのだ。
“量より質を追求”が通用しなくなった背景
いったん、ソニー単体の話から視野を広げ、“プレミアムクラスのテレビ”について話をしたい。テレビ受像機の市場は長らく「画質」と「ブランド」による差別化が成立していた。暗室での黒、肌の階調、動きの品、音のまとまり。そこに価値を見出す層は確かに存在し、ソニーはそうした価値観の中で生き延びてきた。
しかし2020年代になると、市場ルールが変化し始める。
プレミアムクラスのテレビは、65インチから70、80、さらに90~100インチ級へと主役が移り始める。このトレンドは北米と中国で顕著だった。
この流れの中で最も影響を受けたのはLGディスプレイだ。高画質テレビの王道だったOLEDパネルが、超大型化の潮流の中で価格競争力を失ったからだ。
画質は確かに良い。しかしOLEDパネルは65インチを超えてくると、相対的に価格が跳ね上がりる。一方でmini LEDバックライトを搭載した液晶パネルは、現実の視聴環境──明るいリビングで家族がストリーミング映像を楽しむ──において「十分に良い画」を出してしまう。
また大型LCDの供給網は韓国勢から中国勢が握り、日本が投資規模と生産能力で覇権を失ったように、現在は韓国から中国が覇権を奪っている。TCLのパネル子会社CSOTは大型LCDの生産能力を増強し続け、コスト競争力に劣る韓国勢はLCDパネルの生産事業から撤退・縮小せざるを得ない流れが加速している。
正しかった“平井改革”だが……
ところでソニーのテレビ事業は過去にも一度、事業継続が怪しまれていた。
2010年代初頭、テレビ事業はソニーにとって重い荷物だった。巨額赤字が続き、撤退論が何度も噴き上がったが平井一夫氏は、事業を切り捨てるのではなく、猶予を与えた後に生き残る道を、事業の現場に託した。



