その結果、ソニーのテレビ事業は「規模を追わず、収益性を追う」形で継続された。モデル数を絞り、プレミアムにポートフォリオを寄せ、分社化で独立採算とコスト規律を徹底した。“アセットライト”の中で、商品力を高める体質に変えたのだ。
その結果、BRAVIAは生き残った。むしろ、シェアは落としても“良いテレビを作るブランド”としての線を守り、収益性を回復したのがこの時期だ。
しかしこの戦略は言い換えると「外部から調達したパネルに、ソニー独自の映像処理とチューニングで価値を上乗せする」というものだ。
この戦略はプレミアムの競争軸が、超大型化とサイズあたりの価格へと集まり始めたことで揺らぐ。巨大な画面になるほど、部材コストと供給条件に振り回される度合いは増す。ソニーが“独自の価値”として提供する要素を突き詰めたところで、“画面サイズ”という物量の比率が大きくなれば、相対的に差別化は難しくなる。
合弁という形が意味するもの
では、なぜTCLとの合弁なのだろうか?
パネル、熱設計、無線、OS更新、アプリ、広告SDK、そして故障時の対応まで。現在のテレビは、より良いハードウェアの製造だけを切り出せば、良い製品を作れるわけではない。調達と物流、品質とサービスを含めた全体が、コストと体験を決定づける。
ソニーが今回の提携で手に入れたいのは、低コストなTCLの工場そのものではない。
TCLが持つ垂直統合、巨大な生産・物流網、そしてパネル子会社を含む供給力。これを資本関係を伴って取り込むことで、BRAVIAを「戦える価格」に戻すのが目的だろう。
プレミアム製品を中心としたラインナップにするということは、必然的に調達数を収斂させていくことでもあり、結果として調達のパワーを削減させる。良いテレビを作るノウハウはあるが、調達力の差でリーズナブルな価格のテレビを供給できない、という状況は避けるべきだ。
一方でTCLにとって、“ソニー”というブランドは魅力だ。
TCLは出荷台数では世界上位に上り詰めたが、あくまでもお買い得ブランドにすぎない。プレミアムテレビの象徴であるソニー/BRAVIAの画作り、音のまとめ方など、スペック表に書き切れない、ブランド価値を支えてきた無形資産にアクセスしたい。
パネル生産での覇権を握り、それをベースに製品力の強化で距離を詰めた中国勢が、最後の“数歩”を埋めるために欲しいのが“ソニー”のブランドだ。


