AIエージェントには任せきれない「信頼と協働」の領域
AIエージェントの活用が期待される分野はほかにもある。その一つがGovTech(ガブテック)。テクノロジーを用いて新たな公共価値を創造し、公共サービスを改善する分野への展開だ。
世界経済フォーラムは25年1月に発表したリポートの中で、34年までにガブテックは世界で9.8兆ドルの公共価値を生み出し、政府の運営手法や国民とのつながり方を変革すると予想している。世界経済フォーラム取締役兼CTOのステファン・メルゲンターラーは、「この1年で目撃した最も重要な変化の一つは、政府業務におけるAIエージェントの初期的な登場」であり、これがガブテックにとって潜在的な転換点になると話す。
ガブテックを新たなビジネスチャンスと捉える動きは、ここダボスでも実感できる。年次総会の開催期間中、会場の外では国や企業、団体がさまざまなパビリオンを設置し、独自の展示やイベントを開催するのが慣わしとなっている。今年、テクノロジーに強みを持つ総合コンサルティングファームのパビリオンでは、政府がAIエージェントを使って価値を提供しつつ、リスクを軽減し信頼を保つためのガバナンスのあり方を検討するパネルトークが企画されていた。
ここでも問われるのが、「人間とAIはどう協働すべきか」という点だ。メルゲンターラーは「一定の自律性を持ち、複雑なワークフローを最小限の人間の介入で実行できるシステムの登場は、公職に就くリーダーたちに根本的な問いを突き付けている」と指摘する。
「どの意思決定を自律型システムに委ねることができるのか。重要な意思決定における権限と、人間の判断をどのように保持するのか。助言から実行へとソフトウェアが移行する際に、どのような制度的なコントロールが必要なのか。AIエージェントが公共行政に導入されるかどうかではなく、どうすれば最も効果的かつ責任ある方法で導入できるのかが問われている」(メルゲンターラー)
加えて、忘れてはならないのが信頼性の担保だ。ビザのマキナニーCEOは、エージェンティック・コマースを実現するには信頼の構築が不可欠だと強調していた。エージェントが「暴走」して、買いたくないものを買ったり、お金を無駄遣いしたりしないと信頼できなければ、誰も使おうとは思わないだろう。店舗や金融機関も、その買い物が本当に消費者によって権限を与えられたものなのだと信頼できなくては、システムを積極的に活用する気になれない。
セッションでは、ビザがこの問題にどう対処しているのかといった具体事例も示された。ユースケースをシェアすることの価値は大きい。ガブテックにおいても、「公的部門のイノベーター、テクノロジープロバイダー、学術界、市民社会が一堂に会し、課題や教訓、ベストプラクティスを共有するセクター横断的な学びが必要だ」とメルゲンターラーは指摘する。
AIエージェントの導入は生産性や労働の再配分に影響し、雇用や職務のドラスティックな変化をもたらす。AIと、組織や個人がよりよく協働するためにはステークホルダー間の対話が要となる。ここは、AIには任せることができない「人間の領域」なのだ。


