大半の哺乳類にとって、体毛を失うことは通常、不利益になる。多くの哺乳類は毛皮があるからこそ、寒さや紫外線、寄生虫、水分の蒸発などから守られている。
しかし我々人間は、地球上に棲む他の霊長類の種とは異なり、ほとんど体毛がない。その代わり、体温の管理については、体全体に広がる汗腺のシステムに、ほぼ全面的に依存している。
進化における例外事例は、偶然であることはまれで、この特徴も決して偶然ではない。生物学者によると、人類が体毛を喪失したのは、その進化の歴史の中でも最も重大なトレードオフの1つだという。では、さまざまな研究結果から、その理由をひもといていこう。
人類の祖先に体毛があった理由
哺乳類は、毛皮があるのが標準的な姿だ。毛皮の第1の目的は、皮膚に近いところに空気を閉じ込め、体温を安定させるための断熱層をつくることだ。哺乳類の大半は、こうした断熱の仕組みに頼っている。こうした仕組みを持つ種では主に、ハァハァと浅く速い呼吸をしたり(パンティング)、涼を求める行動に出たり、体の一部にある汗腺を使ったりすることで、体から生じる熱をコントロールしている。
この傾向に関しては、霊長類も例外ではない。チンパンジーやゴリラ、マカク(アフリカや日本を含むユーラシア大陸に生息するサルの仲間)はすべて、体毛の密度が比較的高く、一方でエクリン腺(体温調節のための汗が出る汗腺)は最小限しかない。こうしたサルでは、一般的に体温調節の戦略として、日陰になっている場所を探す、暑さがピークに達する時期は行動を控える、手や足に多少の汗をかく、といった手段をとっている。
しかし、学術誌『Journal of Human Evolution』に掲載された研究によると、人類は、霊長類に属してはいるものの、このパターンを反転させたという。他の霊長類に比べて、ヒトは目に見える体毛が極端に少ないが、エクリン腺は体全体で200万から400万個と、並外れて多い。これらの汗腺は、水のような汗を肌の表面に分泌することで、気化による効率的な冷却を可能にしている。
もちろん、この変化は魔法のように一夜にして実現したわけではない。ヒト属の初期人類が、より暑く、開けた環境に対応する必要が生じた時期に、この変化が起きたことが、多くの化石および遺伝情報によるエビデンスから示されている。



