サイエンス

2026.01.26 18:00

ヒトはなぜ無毛になったのか、体毛が示す「進化の賭け」

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人類が毛皮を失った理由

『Comprehensive Physiology』に2015年に掲載された研究論文によると、この体毛の喪失を説明する最も有力な仮説の1つは、暑熱ストレスを主な要因とするものだ。約200万年前に初期人類は、木陰のある森を出て、サバンナの開けた環境でかなり多くの時間を過ごすようになった。

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こうした環境で我々の先祖は、森と比べてより強い太陽の熱放射や、高い気温にさらされた。同時に、考古学や解剖学的なエビデンスから、当時の人類が、長距離を歩いたり走ったりする行動に依存する傾向が強まっていたことが示唆されている。当然ながら、暑い中で長距離を移動すれば、代謝作用によってかなりの熱が発生する。これを放散する方法がなければ、体温は、死を招くとはいわないまでも、危険なレベルまで上昇するおそれがある。

というわけで、防寒目的であれば毛皮は非常に有用だが、継続的に熱が発生する状況では、リスクの高い不利益と化す。具体的にいうと、毛皮は空気を閉じ込め、皮膚表面における熱の蒸発を抑制するため、熱の放散プロセスが大きく阻害される。

時間の経過につれて、人類は体毛が減り、発汗を増進させる方向に進化することで、この問題を解決するようになった。特に発汗は、蒸発効果を有効活用することで、唯一無二の効果を発揮している。水が水蒸気になることで熱を効率的に発散させられるからだ。分泌された汗が1g蒸発するたびに、かなりの量の熱エネルギーが取り除かれる。

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人類が発汗による体温制御を選択した理由

『International Journal of Biometeorology』に掲載された研究論文で説明されているように、人類は優れた発汗機能を持つ。その理由は、体全体にまんべんなく高密度に、エクリン腺を持つように進化したからだ。これによって、水のように薄い汗を大量にかくことが可能になった。さらに発汗は、パンティング(浅く速い呼吸)とは異なり、呼吸や食物の摂取を妨げることなく、体を冷やすことができる。

何よりもこのシステムは、長距離を歩いたり走ったりするような、持久力を要する活動の際に特に効果を発揮する。我々人間は、暑い中でも中程度の強度の活動を、他の哺乳類よりも長い時間継続でき、体に熱がこもるリスクもない。この能力が決定的な役割を果たしたのは、持久的狩猟(persistence hunting)の場面である可能性が高い。これは、初期の人類が採用した戦術を指す言葉であり、獲物の体に熱がこもって動けなくなるまで追いかけ回すことを意味する。

それでも、こんな疑問を持つ人も多いかもしれない──もし体毛を失うことが体を冷やすのにこれほど効果的なら、なぜ我々はふさふさとした頭髪を保っているのだろうか?と。

この答えは、日光から頭を守ることにあるようだ。つまり頭髪は、脳を保護するとともに、頭皮が直接日光を浴びて日焼けすることを防ぎ、熱の吸収を緩和してくれるわけだ。

頭髪(特に、タイトな縮れ毛)があれば、汗の蒸発を妨げることなく、太陽光による熱負荷を大幅に軽減できる。発汗作用と頭髪の組み合わせにより、初期の人類は、日射しが照りつける環境でも、脳がオーバーヒートすることなく、走ったり歩いたりすることが可能になった。これは、赤道直下の環境では決定的なアドバンテージだ。

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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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