7000億ドル(約110兆円)──これは、グリーンランド買収の見込み価格としてこのところ報道で取りざたされている数字だ。
正直、眉唾ものだと思うが、いずれにしろ7000億ドルの小切手をポンと切れる人物などいないだろう。参考までに指摘しておくと、これは2024年度の米国防予算の50%以上に相当する。
ドナルド・トランプ米大統領は、デンマーク自治領のグリーンランドを米国が完全に支配下に置く以外の「いかなる選択肢も受け入れられない」と主張している。だが、世論がこの案を支持しているとは言い難い。
米国民は世論調査に対し、手段が平和的であろうとなかろうと、グリーンランド領有には反対だと答えている。調査会社YouGov(ユーガブ)の最近の調べでは、現地住民に代価を支払ってグリーンランドを米国に編入する案に賛成する人はわずか13%にとどまり、武力による併合を支持する人はさらに減って8%にすぎなかった。
グリーンランドの人々もまた、トランプの考えに好意的ではない。住民の圧倒的多数がデンマークからの離脱を望んでいないからだ。欧州諸国はデンマークを筆頭に、断固反対の構えである。
しかし、グリーンランドの重要性をまるでないものとして片付けてしまうのは過ちだろう。
売り買いの対象でなくとも、グリーンランドは重要だ
北米、欧州、ロシアに挟まれたグリーンランドにはピツフィク宇宙軍基地があり、米宇宙軍はここを拠点に北極上空を通過するあらゆる物体を追跡している。
北極海の氷の後退が止まらぬ中、この監視任務の重要性はますます高まっている。衛星画像によれば、夏の北極海氷面積は10年ごとに12%以上縮小し、1984年比で33%減少している。これにより新たな航路が開かれ、軍事・商用の両面で新しい現実が生じている。
すなわち、北極圏はより航行しやすい海域となり、投資対象として魅力を増しつつあるのだ。
デンマークはこの状況を理解しており、北大西洋条約機構(NATO)加盟国と連携して、2033年までに北極圏と北大西洋防衛に40億ドル(約6300億円)余りを投入すると決定した。デンマークと同盟国はグリーンランドと周辺海域における軍用機、艦艇、地上部隊のプレゼンスを拡大。その演習内容には、重要インフラの警護や北極圏の厳しい環境下での戦闘機運用などが盛り込まれている。デンマーク陸軍のピーター・ボイセン司令官は、地上部隊の展開についても言及した。



