サイエンス

2026.01.24 16:00

恐竜の時代から姿が変わらない、深海のサメ「ラブカ」

「最も古代的な外見の現生脊椎動物」と呼ばれるラブカ(Getty Images)

唯一無二の適応を遂げたサメ

ラブカの口内には、300本以上の歯がいくつもの列をなしている。珍しい特徴として、歯の1本1本が、3つの針のような尖頭を備えている。こうしたデザインは、現生のサメの大部分に見られるものと異なっており、大型の獲物から肉塊を食いちぎるというよりは、獲物に突き刺し、動きを封じることに特化している。

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300本もの歯を持つラブカ(Getty Images)
針のような尖頭を備えた300本もの歯を持つラブカ(Getty Images)

胃内容物の分析に基づく食性の研究によると、ラブカは主に深海性の頭足類、ウミウシ、小型の硬骨魚類を捕食している。獲物の60%は、さまざまな種のイカと、他種のサメで構成されているようだ。暗く水圧の高い深海では、獲物と遭遇することは比較的まれだ。そのため、捕食のチャンスを逃さないことが生存に欠かせない。

生体力学的分析によると、ラブカは急速な吸引採食を行うと推測されている。つまり、前方に突進し、顎を拡張して、獲物を口内に引き込むという採食方法であり、口に吸い込まれた獲物にとって、逃げることはほぼ不可能だ。この方法は、顎の古い構造と、特異な歯の構造から理にかなっている。また、数億年前の初期のサメがどのように狩りをしていたかを考察する上でもヒントになる。

興味深いことに、日本の学術誌『魚類学雑誌(Japanese Journal of Ichthyology)』に1990年に掲載された論文によれば、ラブカはすべての海生生物のなかで最長の妊娠期間をもつ可能性がある。これによると、胚の成長速度から推定するかぎり、ラブカの妊娠期間は実に3年半に及ぶ。

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ラブカは卵胎生であり、胚は卵に包まれた状態のまま、母親の体内で成長する。この繁殖戦略により、子は誕生の時点で、比較的大きく十分に育っているため、深海での生存率は高いと考えられる。このような極端な繁殖と成長のプロセスは、深海における生物の生活史がいかに浅海とは異なっているかを物語る数々の証拠の一つだ。資源に乏しく、環境条件がほぼ一定の深海では、すべてがゆっくりと進むのだ。

「時が止まった」ではなく、「安定を保った」サメ

ラブカのことを、「1億年ほど前から変わっていない」と形容したくなるのはやまやまだが、このような表現は誤解を招く。進化はけっして停止しない。ラブカの系統で実際に起こったのは、ニッチな環境への優れた適応が、形態の大きな変化を伴うことなく維持されたということだ。

遺伝学研究からも、ラブカ科において進化が続いていることが裏づけられている。つまり、遺伝的変異が蓄積されており、小規模ながらも明確な適応進化の証拠が確認された。ラブカの持つ古い解剖学的特徴は、こうした形質が、果てしなく長い年月を通じて、一貫して効率的なものであり続けたことを示しているだけなのだ。

進化生物学的に見て、ラブカはかけがえのない存在だ。現生種でありながら、初期のサメの進化を垣間見せてくれる。現代に生きる生物のなかで、彼らのように古代の海洋生態系や、初期の脊椎動物の生体機能を再構築する手がかりを研究者に示してくれる種は、ほんのわずかしかいない。ラブカのゲノムや骨格構造、発生生物学的特徴を、現生のほかのサメと比較することで、研究者はどの形質がより祖先的で、どの形質がより新しい時代に出現したイノベーションであるかを特定できるのだ。

ほとんどの海生生物を死滅させた大量絶滅さえも乗り越えてきたラブカだが、彼らはいま、その進化の歴史のほとんどを通じて存在しなかった脅威に直面している。深海漁業、混獲、生息地の撹乱が、ラブカの生息する海域にも広がりつつあるのだ。ラブカの繁殖速度は極めて遅いため、いったん個体数減少が始まれば、回復は容易ではないだろう。

ここには明らかな皮肉がある。森林の出現や恐竜の絶滅を見届けてきた、太古の系統に属する種が今や、たかだか数十年単位の人間活動によって存続を脅かされているのだ。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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