社長という役割をぶれずに全うしようとするなら、「社長とは何か?」という問いから逃げることはできません。誰かの言葉を借りるのではなく、自分なりの視点でこの問いと向き合い続ける必要があります。
私はこの営みを「哲学する」と呼んでいます。
すぐに答えを出そうとせず、問いを立てながら考え続けること。そして、自分の言葉で定義し、状況に応じて更新していくことです。
こうして形づくられた定義は、日々の意思決定において力強い指針になります。だからこそ私は経営者との対話の中で、あえて「社長という役割について、一度立ち止まって考え尽くしてみませんか」と提案することがあります。
今回のクライアント、大手食品企業の50代CEOとも、彼が現職就任から約1ヵ月後、新任の社長としてどのように社員たちと信頼関係を築き、組織を率いていくべきなのか、模索していた時期に、このテーマを扱いました。
社長が社員に認められるための絶対条件
CEO:「社長とは何か?」宿題として考えてきましたが、しっくりくる表現が見つからなくて。c
最終責任者、最終意思決定者、ビジョンを描く人、何かあれば記者会見で謝る人……そんな言葉が浮かびましたが。鈴木:どんな「問い」で考えましたか。
CEO:問い、ですか。 正直に言うと、「社長って何だろう?」とぐるぐる考え続けていました。
鈴木:問いが粗いままでは、思考は深まりません。いくつかこちらで問いを挙げてみましょうか。
・社長と副社長の最大の違いは何だろうか
・社長にしかできない意思決定とは何だろうか
・社長に与えられている最大の権利とは何だろうか
・社長が絶対にやってはいけないことは何だろうか
・会社に、なぜ社長という役割が必要なのだろうか
・社員は、どんなときに社長を「本当の社長」だと認めるのだろうかどうですか。問いを聞いていると、少し考えが深まりませんか。
CEO:最後の「社員は、どんなときに社長を『本当の社長』として認めるのか」という問いには、ドキッとしますね。社員は私を形式的に社長だとは思っているでしょうが、心の底から自分たちの会社を代表する人間として認めているかはわかりません。
「何があれば、そして何をすれば、社員は私のことを本当のトップとして認めるのか」、そんな新しい問いが頭に浮かびました。
鈴木:ご自身はどうでしたか。前任者を含む歴代の社長に対して、どんな時に「あぁ、この人は確かに社長だ」と思われたのでしょうか。
CEO:前任の社長が、経営会議で見せた姿を思い出します。社長就任から2カ月目の経営会議で、あるプロジェクトの継続可否を巡って激しい議論が起きました。そのプロジェクトは、前任社長がまだ常務だった頃に肝いりで始めたものでした。当時、すでに大きな損失が出ていましたが、誰も正面から中止を進言できずにいました。
そこでひとりの役員が、「社長の考えには賛成できません。この会社の10年後を考えるなら、今、このプロジェクトはやめるべきです」と言ったんです。
場が静まり返り、誰もが、社長の反応を見守りました。すると社長が、「わかった。きっと、みんな私に気を使って言えなかったんだろう。会社の将来を考えたら、今引くべきだな。よし、やめよう」ときっぱり言い切ったんです。
鈴木:なぜそのとき、この人は社長だなと思われたのでしょうか。
CEO:利他的な行動だと思ったんです。あのとき前任社長は、自分のプライドや過去の判断を脇に置いて、会社の未来を選んだ。それができる人こそ、社長なんじゃないかと。



