希望を語る場になるだろう。そんな期待はすぐに吹き飛んだ。議論の中心は世界に立ち込める暗雲と、人類の生存に向けた抵抗のメッセージだった。
「まず、私たちが2050年に到達できるのか疑問です」。パネルトークの冒頭、アムネスティ・インターナショナル事務局長のアグネス・カラマードの言葉が講堂全体に響き渡った。
民主主義は後退し、1985年の水準にまで逆戻りしている。権威主義という名の暗雲が、わずか12カ月でアメリカのあらゆる機関を覆い尽くした。表現の自由、メディア、学問、移民や難民、ダイバーシティ。かつて不可侵とされた領域が、次々と侵食されている――そう彼女は主張した。
未来を語るには、今を乗り切る必要がある。2050年のビジョンを描く以前に、そこに到達することが最初の願いであり、「自分たちの村やコミュニティ、家族を含め、私たちはどこにいようとも権威主義的な慣行と戦う責任がある」と、カラマードは力強く発した。

コロンビア大学のアダム・トゥーズ教授は、「ダボスでこんな話をすることになるとは思っていなかった」と前置きした上で、「現時点では、グリーンランドが自治と自己決定権を持つこと」が願いだとし、「そこに到達することは、(社会や集団の)大きな意識の変化を意味する。これこそが、今週のダボスでのテーマの1つだろう」と述べた。

そして、聴衆に向けて「暗い事実」を訴えた。トランプ政権は気候変動対策の国際的な枠組みから離脱しただけではない。国際海事機関(IMO)では小国の代表者を個別に脅迫し、船舶の脱炭素化という人類共通の目標を「マフィアのような手法で」妨害した━━。「彼ら(トランプ陣営)は気候変動の分野にも、脅迫や個人への脅しという戦術を持ち込んでいる」。その言葉は、これから始まる「トランプ・ダボス」への警鐘のように聞こえた。
だが、暗い現実ばかりが語られたわけではない。グローバル・シェイパーとしてカブールで活動するザイナブ・アジジは、6年生以上の女子への教育が禁止されているアフガニスタンで、国内外の人たちがAIなどを駆使しながら教育を受ける権利を支えるネットワークを築いている現実を語った。志を持った人たちが自発的に立ち上がり、静かに灯す抵抗の炎は希望の光のようにも映る。

フォーラム開始から1時間が過ぎ、聴衆を交えた質疑応答の時間になった。10人をゆうに超える人たちが勢いよく手を挙げた。「権威主義体制が人々を虐げ、ジェノサイドを犯し、人々が逃げ出すのを止めるのに有効かつ強制力のある仕組みは生まれると思いますか」。参加者からの質問に、カラマードは力を込めてこう言った。
「私はまったく希望を持てない。しかし、もし私たちが一緒にノーと言い、立ち上がり、抵抗するなら、変わるかもしれない」。その言葉は、世界に渦巻く権威主義に対する「宣戦布告」のようにも映った。
2050年という未来は、まだ白紙の状態にある。そこに希望を書き込むことができるのか。選択は、今この瞬間の私たちの手に委ねられている。
「ダボス・リポート2026」では、ダボスの現場取材を通じて、今後の経済や社会を描くうえで今まさに「人間による対話」が求められる領域と、対話が実装に変わるための条件を紐解いていく。


