保護の仕組み
ここからが仕組みの話だ。間違った理由で昇進した管理職は、自分1人というわけではない。周りには同じように昇進して来た人間がいる。勤続年数、忠誠心、そして「まったく別の文脈での成果」によって上がってきた人たちだ。
これが、私が「ピーターの法則の保護ネットワーク」と呼ぶものを生む。管理能力と無関係な基準で昇進させれば当然、ギャップを認識できないリーダー層ができあがる。仕組みの失敗を認めることは、自分もその失敗の一部だと認めることになる。
このため、彼らは認めない。
代わりにその仕組みを維持する。同じように欠陥のある基準で他の人を昇進させる。そして権限構造を作る。承認の層、合意の要件、リスク委員会といったものだ。これらは意思決定のスピードを、最も能力の低いリーダーのペースに引きずり下ろす。
イノベーションは、「リスク」としてとらえ直される。スピードは無謀さに置き換えられる。能力不足を露呈させる提案は、決定段階にたどり着く前にふるい落とされる。この仕組みは変化を露骨に拒否したりはしない。ただ、変化には実行できない人間たちの合意が必要になるように設計する。
たとえば、あるエンジニアリング担当のバイスプレジデントが、15年間コードを書き続けた末に昇進したとしよう。技術的には天才だ。だが人材育成はまったくダメだ。昇進してなお、すべてのプルリクエストを自分でレビューするが、直属部下のキャリア目標を明確にできない。アーキテクチャのデバッグには3時間使うのに、1対1の面談には15分しか使わない。
本来なら職務とのミスマッチを是正すべきだが、組織はそれをせず、その人の周りを固める。技術面の指示を言い換える参謀役、業績評価のやり取りをさばく人事部門のパートナー、その人が担うべきだったスケジュール管理を担うプロジェクトマネジャーを置く。
それは支援に見える。だが実のところは隠蔽だ。
しかもその人は、経理上がりの最高財務責任者(CFO)やオペレーション上がりの最高執行責任者(COO)といった人たちと同じような理由で昇進したため、誰もそうした実態を指摘できない。指摘すれば、自分にも降りかかるからだ。仕組みによって皆が共犯者になりながら、機能不全を温存する。
責任転嫁
ピーターの法則の経済の最も残酷な点は、責任の所在を歪めることにある。コネや勤続年数で昇進したリーダーは守られる。一方で実力で昇進したり、組織再編や市場変化の波に巻き込まれたりした中間管理職は、計画が行き詰まったときに責められる。
たとえば、経営陣が2時間かけて「中間管理職のボトルネック」を突き止めているとする。最高経営責任者(CEO)は、なぜプロダクトのロードマップが遅れ続けるのかを問う。3人の役員は、8カ月前に採用され、管理経験ゼロのプロダクトディレクターを指差す。そのディレクターは、機能を期日通りにリリースした成果が認められて昇進したのだ。
ディレクターは苦しんでいる。だが、なぜオンボーディングなし、リーダーシップ育成なしの状態で12人のチームを与えられ、しかも「すでに管理ができる前提」で四半期目標が設定されたのか、誰も問わない。会話は常に下層でのみ交わされ、失敗する環境を作った上層部の意思決定に触れられることはない。
これは都合の良いシナリオだ。
中間管理職は格好の攻撃対象だ。責められやすく、自分への厳しい視線をさらに上に向けられるほど強い権力は持たない。一方で昇進の仕組みを設計し、お粗末な人事をし、弱いマネジャーを官僚的な防護壁で囲った経営陣は、無傷のままだ。
これは失敗する企業だけの話ではない。世間的に成功している組織の中にも、ピーターの法則の経済で回っているところはある。しばらくはそれでも回る。市場地位、ブランド力、あるいは資本余力が、リーダーシップの凡庸さを何年も隠してくれる。だが、それらが続かなくなるまでの話だ。


