争いの発端は、後継計画を子どもたちと話し合った会合
この相続争いの焦点となっているのは、ソルツが68歳の誕生日を迎える2日前、2024年8月2日に起きた出来事だ。彼はこの日、ワルシャワのオフィスで子どもたちと面会し、自身の後継計画を話し合った。その数日後には家族全員でイタリアへ旅行し、ソルツが所有する全長約90メートルのスーパーヨットで休暇を過ごす予定だった。
財団の支配権移譲の宣言書に署名するも、翌日に撤回を通知
この会合の結果、ソルツは、リヒテンシュタインに拠点を置く2つの財団の支配権を、「即時かつ取り消し不能の形」で子どもたちに移す宣言書に署名したとされる。これら財団は、ソルツの会社の持ち分を保有しているが、彼によれば、その日のうちに顧問に相談した結果、自分が騙されていたことに気づいたという。その翌日、ソルツは子どもたちに対し、この宣言を撤回したいと伝えた。これをきっかけに、ポーランドやキプロス、リヒテンシュタイン、米国にまでまたがる法廷闘争が始まった。
テレビドラマさながらの展開
この家族内の争いは、テレビドラマさながらの展開を見せており、HBOの人気ドラマ『メディア王 〜華麗なる一族〜』に例えられることも多い。子どもたちは、父親が病を抱えており、「新型コロナウイルス感染による長期的な精神的・身体的影響に苦しんでいる」と主張している。ソルツが18歳年下の4番目の妻、ユスティナ・クルカの支配下にあるとも主張している。クルカは、ソルツの通信会社ポルコムテルで長年働いてきた元従業員で、2人は家族の争いが始まる約5カ月前の2024年3月に結婚した。
これに対しソルツは、こうした主張を否定し、子どもたちが自身の事業帝国を乗っ取るために「クーデターを画策した」と主張している。彼は、支配権を取り戻すために法廷で徹底的に争う姿勢を示している(2024年12月のポーランド版フォーブスの取材で、ソルツは「HBOのドラマを見るよう勧められたが、自分はテレビを見ない」と語っていた)。
家族間の争いで株価下落、事業帝国に大きな代償
この争いは、すでに大きな代償を伴っている。家族は、リヒテンシュタインに設立された2つの財団を通じて、ポーランド最大の有料テレビ事業者Cyfrowy Polsatの60%と、同国最大の民間エネルギー会社ZE PAKの66%をはじめとする資産を保有している。資産全体の半分以上を占めるCyfrowy Polsatの株価は、家族間の対立が公になった2024年9月以降の1年間で7%下落した。
2005年、推定純資産10億(約1580億円)で初めてフォーブスの世界ビリオネアリストに名を連ねたソルツの資産額は、2021年8月に41億ドル(約6478億円)でピークを迎えたが、その後は減少。現在は25億ドル(約3950億円)まで落ち込んでいる。
投資家の不満も高まっている。オーストリアの金融サービス会社エルステ・グループのアナリスト、ノラ・ヴァルガ=ナジは、「この問題は、間違いなく株価に影響を与えている。家族間の争いが終結すれば、市場にとっては安心材料になるはずだ」と指摘する。ただし、それがいつになるかは誰にも分からない。
地元墓地のろうそく売りから富豪へ、30年かけ“帝国”を築く
一方、ソルツが30年以上にわたり複数の業界にまたがる事業帝国を築き上げてきたことに異論はない。1956年に共産主義体制下のポーランドで生まれたソルツは、幼少期、わずかな現金を稼ぐために地元の墓地の外でろうそくを売っていたという。20代でドイツに渡り、1980年代後半に帰国すると、輸入品の販売に乗り出した。
2011年に携帯通信会社を買収、約8690億円投じる
1989年にポーランドの共産主義政権が崩壊すると、ソルツは1992年に同国初の民間テレビ局を設立した。その後、有料テレビ網を立ち上げ、エネルギー分野にも投資を拡大。2011年には、ポーランド史上最大規模のレバレッジド・バイアウトを成立させて携帯通信会社ポルコムテルを55億ドル(約8690億円)で買収した。
そして、2012年と2013年には、現在の争いの核心となっている2つのリヒテンシュタインの財団を設立した。ソルツは、これら財団が所有するキプロス拠点の企業に、米国の信託に似た仕組みで保有資産を集約した。ソルツは、ポーランド版フォーブスの取材に対し、「リヒテンシュタインは、家族財団を設立するうえで有利な条件が整っていることで知られている」と語っていた。


