教育

2026.01.23 14:15

NHK「デザインあ」「キシリトール」の京都芸術大佐藤学長、音楽コース新設に賭すこと

京都芸術大学佐藤卓学長(TSDO事務所で)

テクノロジーが変えた学びの「入口」

その変化を象徴するのが、AIをはじめとするテクノロジーの存在だ。スキルの習得を前提とせず、「まずつくってみる」といった発想の転換が起きている。

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「昔はレイアウトを組むにも、専門的な知識や訓練が必要でした。でも今は、AIを使えば誰でもある程度の形にできてしまう。重要なのは、その先に何を生み出すかなんです」

デザイナーとして第一線を走ってきた佐藤氏の実感だ。広告や商品開発、展覧会のディレクションなど、多様な現場で“伝えるためのデザイン”に携わってきた経験から、ツールやスキルをゴールとせず「その先」に目を向ける学びの重要性を実感している。

こうした価値観の転換は、音楽にもあてはまる。かつては、高度な技術を身につけた人だけが表現者とされていたが、いまは誰もが音を素材として扱い、自分なりの表現を模索できる時代になった。「音楽に興味はあるけれど、自分には向いていない」と感じていた人たちにも、新たな可能性がひらかれている。

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実際、京都芸術大学の音楽コースでは、「楽器・楽譜不問」を掲げている。楽器が弾けなくても、楽譜が読めなくても出願できる──日本の大学ではきわめて珍しい方針だ。

「音楽に惹かれているのに、自分には縁がないと思ってしまう人がたくさんいます。そうした人たちにこそ、いま入口を開きたいと考えたのです」

この背景には、「学びは誰にでも開かれているべきだ」という大学の理念がある。これまでも10代から90代まで、年齢や経験を問わず挑戦できる環境を整えてきた。そんな“ひらかれた学び”の姿勢に、音楽コースが新たに加わることになる。

「たとえば、農業をしてきた人が、自然と向き合うなかで育んだ感覚を音楽にする。そんなことも、十分にあり得る。新しいプロフィールの表現者が現れる可能性が、ますます広がっているのです」

学びの交差点としての芸術大学

総合芸術大学のなかにある音楽コースで学ぶ価値────それは、表現の「掛け合わせ」かもしれない。

しかし、佐藤氏が学生だった当時は、異なる芸術ジャンルを超えた「掛け合わせ」はごく限られたものだった。佐藤氏自身、美術(デザイン)を学びながら音楽にも関心を抱いていたが、進路の選択肢はもちろん、ましてや学部を越えて学ぶことなど、ほとんど不可能に近かったという。

「もし、いまのような環境が学生時代にあったら……。自分の進路も変わっていたかもしれません。当時は学びとして交差する機会はほとんどなかった。美術と音楽は、別々の世界にあったんです」

ところがいまや、映像、音楽、デザイン、テクノロジーといった領域が自然に重なり合い、新たな表現が生まれている。もはや分野を明確に分けること自体が現実にそぐわなくなっている。

「音楽を単体で捉えるのではなく、他の表現とも結びつけて考える。その余白を残すことが大切だと思っています」

分野を横断することで、表現はより多層的に、奥行きをもって立ち上がってくる。それこそが、現代における創造のリアリティだという認識が、音楽コースの根底にある。

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文=田口みきこ 編集=石井節子

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