映画

2026.01.20 15:15

韓国映画「ただ、やるべきことを」、主演男優が明かす監督と衝突した場面

中堅造船所の若手社員、カン・ジュニ(演:チャン・ソンボム) 『ただ、やるべきことを』1月17日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開 (c)Nareun Cinema / Myung Films Lab.

映画では、実際に2016年から17年にかけて韓国で起きた朴槿恵大統領の弾劾騒ぎが盛り込まれている。チャンが演じるカンと恋人が、弾劾を求める人々のデモ行進を眺めるシーンだ。そこで、恋人はカンを誘ってデモに加わろうとする。チャンはパク監督に「この場面を外せば、もっと良い映画になるのに」と言って迫ったという。チャンは「あれは、映画の中で一番惜しい場面だった。弾劾を巡るシーンをなぜ入れるのか。意図的で政治的だ」と語る。会社が経営を続けるために人員を整理することは、残念ながらありうる。チャンは「労働者と創業者が対等ということはないだろう。創業者は投資しているし、労働者もその一部だとも言える」と語る。

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ただ、パク監督も悩み、カンと恋人が一緒にデモ行進するシーンも撮影したものの、そこまでは映像化しなかった。パク監督自身、「カンは人員整理を巡って、たくさん悩み、上司の不条理な指示も受け入れた。でも、そのあとでデモ行進に参加する場面を出すと、カンに免罪符を与えてしまうと考えた」と語る。

パク監督の言葉は何を意味するのか。韓国では「保守は大企業や日本、米国などの味方」「進歩(革新)は労働者の味方で朝鮮民族第一主義」というステレオタイプの分け方をよくする。パク監督が「免罪符」と語ったのは、カンが朴槿恵大統領弾劾のデモ行進に加わる姿を見た観客が、「カンも進歩勢力を支持しているのか。じゃあ、映画で人員整理をしたのは本意ではないんだ」と考えることを指している。

もちろん、チャンが演じたカンは人員整理で悩んだし、そんなことはしたくないと考えていた。しかし、韓国の若い世代であるチャンは「人員整理に反対する人は進歩勢力」というステレオタイプの押し付けに違和感を覚えたということだ。

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チャンはこの作品への出演を契機に、芸能事務所との契約を打ち切り、独立したという。チャンは「ドラマも映画も、自分で脚本を選べる。金をたくさん稼ぎたいという気持ちはない。名優になれなくてもいい」とも語る。同時に、「つらいことがあるなら、ゆっくりやればいい」という言葉には反発を覚えるという。「美しい言葉は、若い人を弱くする。悪い言葉ではないが、自分は海兵隊勤務で忍耐も覚えたつもりだ」と話す。

この映画が作り出した、過去の韓国にはなかった斬新な視点と同様、韓国の若い世代も確実に変わりつつある。日本もいつまでも韓国をステレオタイプな考え方で判断してはいけないということを、映画とチャンは教えてくれる。

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文=牧野愛博

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