渋沢栄一が国の基幹産業に据え、世界の市場を席巻した蚕産業が、今は衰退の一途をたどっている。Morus(モルス)代表の佐藤亮は、この“眠れる産業”に、世界で勝負できる事業の可能性を見いだした。
同社は、自社のパイロットプラントや提携養蚕農家で飼育した蚕の幼虫を加工し、プロテインなどにして販売するほか、BtoB向けには原料供給を行う。佐藤は東京大学アメリカンフットボール部所属時代に栄養学に興味をもち、商社でアパレル業界に携わるなかで養蚕業に出会った。ベンチャーキャピタル(VC)では研究シーズの社会実装を支援。「日本では2000年もの産業・研究の歴史があり、栄養価も高い。ビジネスをやるなら蚕しかないと思った」。信州大学がもつ蚕の量産技術と栄養学・食品科学の技術をベースに、蚕研究の権威である同大教授の塩見邦博と2021年にモルスを創業した。
こだわったのは、「昆虫食スタートアップ」とは名乗らないことだ。VC時代に「日本など食料に困っていない国では、代替タンパク質という訴求だと急成長が見込みにくい」ことを学んだ。だから、「DNJ(食後血糖上昇抑制効果)」などの機能性成分を軸に、科学に裏付けられた高機能栄養原料として健康・美容市場を取りにいった。
試作品を手に世界を回った佐藤は、シンガポールで、漢方を服用する文化があり“日本製”への信頼が厚い華人・華僑の反応に手応えを感じた。現在、健康意識の高い女性や富裕層、パーソナルジムや美容クリニックなどで採用が進む。「蚕という日本発の栄養原料で世界を健康にし、国内生産者や研究者に還元していく。これは、日本の“叡智”を、世界が必要とする価値に転換する産業創造だと考えています」
さとう・りょう◎東京大学在学中、アメフト部で栄養学を研究。伊藤忠商事繊維カンパニーにてリテール領域を担当後、シード投資家のサムライインキュベートではディープテックなどの新規事業支援に従事。



