サイエンス

2026.01.22 18:00

時速240kmで種子を飛ばすスナバコノキの驚くべき進化

Shutterstock.com

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中南米の熱帯雨林には、何の前触れもなく果実が爆発する木が存在する。鋭い破裂音とともに飛び出す種子の速度は、時速150マイル(時速240km)に達する場合もある。その爆発音は、動物を驚かせたり、近くにいる人間が思わず後ずさりしたりするほど大きい。果実がこのように「爆発」するのは、一部の説に反し、防御作用ではなくただ単に繁殖するためだ。

スナバコノキ(学名: Hura crepitans)と呼ばれるこの木は、爆発して種子を飛散させるという、ごくわずかしか存在しない驚くべき植物群の1種だ。以下では、スナバコノキが、植物組織と水分張力、不安定な力学のみを頼りに、進化に伴う根本的な問題をどう解決してきたのかを探っていこう。

動けないスナバコノキの進化的な問題

植物は、大半の動物には無縁の大きなジレンマを1つ抱えている。いったん根を張ったら、そこから2度と動くことができないことだ。しかし、子孫は親から離れた方が、はるかに大きなメリットを得られる。親の木に近すぎる場所に落ちれば、光や水、栄養分を競い合わなくてはならなくなるし、その種を目当てに集まってくる捕食者や病原体の犠牲になりやすい状態に置かれてしまう。

こうした理由があることから、種子は拡散しなければならない。これは、植物の進化において最も強力な選択圧(淘汰圧)の一つだ。多くの植物は、種子を甘い果実で包んだり、粘着質の物質で覆ったりして、鳥などの動物に種子の拡散を「外注」し、進化を遂げてきた。あるいは、風や水の力を頼りに拡散する植物も存在する。

しかし、樹木がうっそうと生い茂った熱帯雨林では、種子を拡散しようにも、強い風は吹かないし、動物も当てにならない。そのため、より直接的な解決策を見いださざるを得ない植物もある。植物学ジャーナル『New Phytologist』に1977年に掲載された有名な研究にもあるように、スナバコノキの場合は、果実をばね仕掛けの武器に変えることがその解決策だった。

確かに面白い話だが、スナバコノキがユニークだと言われるのは、そうした繁殖戦略だけが理由ではない。スナバコノキの幹は、鋭く尖った円錐形のトゲに覆われ、樹液には強い毒がある。しかし当然のことながら、スナバコノキが科学的に大きな関心を呼んでいるのは、その果実がどう爆発するのか、その生体力学に理由がある。

スナバコノキの幹(Shutterstock.com)
スナバコノキの幹(Shutterstock.com)

スナバコノキは、カボチャとよく似たカプセル型の大きな実をつけ、その内部はミカンの房のように分かれている(なお、この木が古くからスナバコノキ:sandbox treeと呼ばれるようになった由来は、羽根ペンで文字を書いた後に振りかけて乾燥させる砂の容器として、乾燥させた果実が広く使われていたからだ)。そして、この果実が熟して乾燥が進むにつれ、カプセルの内側には内部応力がかかっていく。この力がやがて、房を1つにまとめている組織の強度を上回ると、果実はものすごい勢いで破裂する。

前述の研究でも指摘されているように、種子は平均で秒速43m、時には秒速70mという驚異的なスピードで飛び出し、親の木から何十mも離れたところに着地することもある。ちなみに、そのスピードたるや、米メジャーリーグの投手の投げるボールを上回り、空気銃の銃口速度に匹敵するほどだ。

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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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