現在発売中のForbes JAPAN1月23日発売号の第二特集は、「新たな豊かさ」を生み出し、持続可能な経済成長の新主役とも言える「インパクト・エコノミー」をテーマにした「IMPACT THE NEW CHAPTER Vo.2」。今回、フォーカスするのは、社会課題の解決を成長のエンジンととらえ、持続可能な社会の実現を目指す「インパクトスタートアップ」だ。インパクトスタートアップの「1年間の経営におけるチャレンジ」を表彰する「インパクト・チャレンジ・オブ・イヤー」という新企画を中心に、金融・資本市場、大企業、スタートアップ、官、地域で拡張し、「新章」を歩みはじめた日本のインパクト・エコノミーの新潮流を読み解いていく。
「インパクトチャレンジ・オブ・ザ・イヤー2025」に選出された一社、リージョナルフィッシュ。日本の勝ち筋として水産業の業界変革に挑む「新技術×事業・経営の両輪」がもたらすインパクトとは。
登壇したプレゼンテーションの冒頭。京都大学発スタートアップ、水産物の品種改良を手がけるリージョナルフィッシュ代表取締役社長の梅川忠典は、この質問の対比から始めた。
「天然のマダイと養殖のマダイ、どちらがおいしいと思いますか。これは天然物と答える人がほとんどでしょう。でも、天然の野いちごと栽培いちごのあまおうはどうでしょうか。当然、あまおうですよね。この違いは、品種改良が進んでいるかどうかです」
そして、牛、豚、鶏、トウモロコシ、ニンジンの事例が続く。農耕畜産では1万年程度の歴史のなかで、我々が普段口にするもののほとんどが品種改良されているのに対し、水産物の完全養殖は50年の歴史しかなく、30年かかる品種改良を行う時間がなかったことで、ほとんどが品種が変わっていない天然種であるのが現実だという。ただ、水産物でも品種を変えたほうがいいという世界が来るという未来像が語られ、そのためのアプローチが、「品種改良加速技術」と称されるようになったゲノム編集技術だと梅川は続けた。
同社は2019年4月、京都大学と近畿大学の共同研究成果をもとに設立され、その技術・知財、人材により、水産物の品種改良を超高速で進めることを目指す企業だ。実際に同社が手がけたトラフグの新品種開発では、従来の品種改良では30年以上かかるところ、品種改良加速技術により2〜3年で開発に成功した。そして品種改良によって生まれた市場価値の高い魚をサステナブルに陸上養殖できるモデルを開発している。すでにマダイ、トラフグ、ヒラメの品種改良には成功し、販売も手がけている。「一例だがトラフグの成長速度は1.9倍アップし、必要な飼料も4割削減できる」と梅川は話す。
梅川の問題意識は次の一言に集約できる。「産業としての勝ち筋」だ。30年間の推移を見ると、日本の水産物生産量は3分の1に縮小し、水産事業者数も3分の1へと減少している一方、世界の水産物生産量は倍増で成長している。「日本の魚は世界でいちばんおいしい。その理由は、日本の神経締め、血抜き、熟成、冷凍などの加工技術が世界一だから。品種改良、そしてスマートな養殖環境の整備をはじめとした生産体系の革新を行い、加工技術につなげることで、世界でも戦える水産業をつくっていけるのではないでしょうか」。
「高温耐性品種」の開発に成功
同社がこの1年のチャレンジとしているのが、「地球沸騰化による海水温の上昇が進む中、高水温でも生きていける魚を品種改良でつくる」ことだ。近年、気候変動の影響により、日本海域をはじめ、海水温の上昇が止まらない。23年9月は平年差プラス3〜4℃を記録したという。魚にとっては1℃の水温上昇が人間にとっての約10℃の気温上昇に相当し、実際に福井県小浜市で養殖サバの9割近くが大量死したことをはじめ、高知県宿毛市での養殖マダイ、青森県陸奥湾の養殖ホタテ、広島県の養殖カキの大量死など各地で多大な被害が出ている。こうした事態を梅川は次のように話す。



