/ ビジネス 2026年2月20日

Facebook
X
LINE

顧客体験の追求が企業経営の新たな軸に―
グローバル企業に定着する「CCXO」

Forbes JAPAN BrandVoice Studio世界38カ国、800万人が愛読する経済誌の日本版

近年、顧客体験(CX)の重要性が指摘されているが、日本企業はその取り組みにおいて、世界のグローバル企業から遅れをとっているという。EYストラテジー・アンド・コンサルティング カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナーの青木健泰に、世界のトレンドやCX経営の要諦について話を聞いた。

顧客の人生全体をジャーニー化し「LTV」の最大化を目指す

企業経営が高度化するにしたがい、CTO(最高技術責任者)やCSO(最高戦略責任者)などさまざまなCxOが誕生したが、今世界的に注目されているのが「CCXO」だ。カスタマー・エクスペリエンス−−つまり、顧客体験に対する最高責任を負うポジションだ。EYストラテジー・アンド・コンサルティング カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション パートナーの青木健泰が、そのトレンドを解説する。

「グローバル企業の9割が置いているというデータがあるほど、CCXOは今重視されています。CXの領域はこれまでCMO(最高マーケティング責任者)が担っていましたが、マーケティング、セールス、カスタマーサービスはそれぞれ別の領域であり、マーケティングの担う範囲は限定的です。ところがデジタル化が進んだことによって、分断していた領域を一気通貫で可視化できるようになりました。その結果、自分たちの顧客と真剣に向き合うために部署を横断してCXの最大化に取り組もうと、この役職が置かれるようになったと分析しています」

日本は、そうした世界のトレンドに遅れをとっているのが現状だ。その要因は、日本企業の組織体制やDX戦略にあると青木は指摘する。

「グローバル企業の9割が置いているというデータがあるほど、CCXOは今重視されています。

CXの領域はこれまでCMO(最高マーケティング責任者)が担っていましたが、マーケティング、セールス、カスタマーサービスはそれぞれ別の領域であり、マーケティングの担う範囲は限定的です。ところがデジタル化が進んだことによって、分断していた領域を一気通貫で可視化できるようになりました。その結果、自分たちの顧客と真剣に向き合うために部署を横断してCXの最大化に取り組もうと、この役職が置かれるようになったと分析しています」

日本は、そうした世界のトレンドに遅れをとっているのが現状だ。その要因は、日本企業の組織体制やDX戦略にあると青木は指摘する。

「CCXOは顧客満足度調査の結果やクレーム処理の件数を追うのではなく、ユーザー一人ひとりからどれだけの売上・利益を上げられるかにコミットする役割であり、収益に対する全責任を負うのに等しいのですが、縦割りの日本の組織では、それに対して横断的に責任をもつことが難しい。それに昨今各社が進めてきたDXの推進により、顧客のバラバラに分断された情報をCDPを導入することにより一元管理できるようになったものの、集めた顧客データがCX経営に生かされていません。ツールやシステムにばかり目が向いてしまって、その目的が抜け落ちている企業が多いのです」

CXを向上させるためには、顧客を評価することが重要だが、青木によれば、日本企業はそれも的確に捉えられていないという。

「BtoC企業の多くは、顧客評価指標にNPS(ネット・プロモーター・スコア)を使っています。目に見えて低い数値を改善することは必要なことですが、一定レベルまで改善した後の微妙な数値の変動は、アンケートをとる対象によって変わるので、あまり意味のあることではありません。ところがその結果に一喜一憂する、いわゆる“NPS疲れ”をしている企業が多いのが現状なのです」

では、CXの高い優良顧客をどう評価すればいいのか。そのカギとなるのは、サービス利用度と親密さだという。

「私たちは、CXをふたつの軸で評価します。ひとつは、どれくらいのサービス数やプロダクト数を使ってくれているかというサービス利用度。もうひとつは、ユーザーが自分たちの情報をどれくらい提供しているかという親密度です。例えば名前とメールアドレスだけを入力する顧客もいれば、住所や年齢、家族構成、年収まで開示してくれる顧客もいます。開示している情報の多さが、その企業との関係性の深さを示すのです。

これらふたつの軸でマトリックス図を作成すると、左下がボリュームゾーンで、右上が自分たちのサービスを非常に気に入っているロイヤルカスタマーのゾーンになります。ボリュームゾーンの顧客を右上へと育てていくことが、CX経営なのです」

CXを向上させるには、顧客に深く入り込むことが必要であり、顧客の人生に関与することが重要だという。

CX改善と財務成果をつなぐLTVフレーム

「マーケティングの観点では、いわゆる認知、興味関心、欲求、行動、記憶のAIDMAを回すのが代表的な顧客購買サイクルですが、私たちが考える顧客の捉え方は、究極的には生まれてから死ぬまでの人生全体をジャーニー化するという『LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯価値)』の最大化です。顧客をロングスパンで捉え、例えば大学進学、就職、結婚といったステージにおいてどのような生活行動を取るかをジャーニー化して、それに対してどういうサービスを提供すれば顧客が自社のファンになるかを考える。提供するのは必ずしも売り物として製品やサービスだけではなく、情報や無償サービスの場合もあります。そもそも顧客接点が少ない企業には顧客接点を増やすことも視野に入れることも検討します」

LTVの最大化を実現するために不可欠なのがCCXOの設置だが、それを機能させるためには、部門やセクターを横断した全社的な取り組みが必要だという。それは縦割りの組織が主流の日本企業にとって難しい試みだが、EYはそれを支援する。

「従来型の経営では、各事業の個別最適とその総和で会社の評価が決まります。ところがCX経営では、例えば電車とタクシーの事業を展開していてタクシーのほうが収益性が高ければ、電車を利用する人がタクシーに移っても構わないという考え方です。鉄道事業からするとたまったものではありませんが、顧客を別の事業に送り込んだらそれを可視化し、利益の何パーセントかを送客元の事業に還元するよう設計することで、納得感がえられるようになります。非常に難しい作業ですが、全社としての売上・利益をどのように配分して評価するかが重要であり、当社はその設計のお手伝いをしています」

EY自身も、部署にとらわれないチームがつくり上げられてきたという。

「一般的なコンサルティングファームの組織は縦割りであり、営業部にはセールスチームが、コンタクトセンターにはサービスチームがコンサルティングに入るので、CXをUIやUXの延長で捉えたり、NPSのみを重視したりするケースが多い。一方で私たちは、これからの会社経営はCX軸であるべきだという思いがあるので、縦割りに縛られない、CXにこだわったチームを組織しています。それによって私たちの経験値が積み上がってきていますし、感度の高い企業からもご評価いただけるケースが増えてきています」

CXの追求で日本企業のサービスを世界レベルに押し上げる

世界のトレンドに遅れをとる日本企業だが、なかには先進的な取り組みをしている企業もある。その事例として、青木はイメージしやすい業界として、保険会社と鉄道会社を挙げる。生保・損保など保険会社は一般的に、保険に加入したら顧客との接点があまりない。顧客のライフステージを捉えることで、収益機会を増やそうと試みる保険会社が増えているという。

「極端に言えば、保険は契約時と万が一が起きたときの2回しか顧客接点がない商品です。それをある保険会社では、顧客の家族構成の変化などの情報を把握し、CCXOが中心となってジャーニーを設計することで、最適なタイミングでさまざまなサービスを提案することが可能になりました。今では、医療や健康、更には美容などへと領域が広がっています」

また国内の鉄道会社は従来から、駅ビル、百貨店、スーパー、旅行、不動産など多角経営をしてきたが、それぞれの事業は独立しており、グループ全体でCXを捉えることがあまりなかった。それが変わったきっかけは、コロナ禍だと青木は指摘する。

「人流の抑制によって鉄道の利用者が減り、非鉄道事業の重要性が増しました。そこで各社は、自社で発行しているクレジットカードを中心に顧客データを統合し、購買情報などの見える化をしました。そして、CCXOのようなポストを設け、自分たちが理想とする顧客を設計したうえで、金融事業を強化したり宿泊事業に送客したりするなどして、グループ全体の売上・利益向上に取り組んできたのです」

こうした先進的な事例を、顧客接触が比較的多い小売業や逆に顧客接点の低いメーカーなどほかの業種にも広げようと、日々奮闘しているのが、青木たちのチームだ。CX経営が当たり前になり、日本企業がグローバル企業と伍して戦えるようにすることが、青木の願いだ。

「例えばサプライチェーンは、ある程度学問的に体系化されており実務レベルで最適解が求めやすい分野だと言えますが、一方で私たちが取り組むCXという分野はまだ体系化されていません。試行錯誤しながら何が正解かを探し、その価値を伝えることは勇気がいることですが、何もしないでいたらグローバル企業に差をつけられる一方です。すでに集まっている顧客の属性情報や購買実績に加えて、チャネル横断での行動データや顧客の声、更にはAIを活用し顧客感情をデータ化するなど顧客理解を深め、顧客を動かす体験を企画・実行し、収益との因果を見ながら、その運用改善を続けていく。これはすなわち日本人の得意な“デジタル版おもてなし“であると言えます。私たちがお客様と共にこうしたCXの取り組みを追求していけば、日本企業のさまざまなサービスを世界レベルに押し上げていくことができるはずです」