IBMの東京基礎研究所で10年以上にわたり基礎研究を手がけた。この間に「IBM Watson」が登場し、自然言語処理分野への注目度は一気に高まった。村上はソフトウェアの製品化に携わり、やりがいのある日々を過ごした。
そんな矢先に起きたのが、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故だった。「原発は“悪”だ」という論調が広がる様子に村上はショックを受けたという。
「技術そのものに善悪はないというのが私の考えです。原子力も同じで、すべては人間の使い方次第なのです」
AIにも同じことが言える。AIがバイアスをはらむとすれば、それは学習データや開発体制に起因するものだ。村上が、AIの規制強化よりも透明性の高い開発プロセスを重視するのもうなずける。
震災を機に「ITを復興や減災、リスク管理に生かしたい」と考えた村上は、15年に一般社団法人情報支援レスキュー隊を立ち上げた。その後、縁あって21年に損害保険ジャパンに入社し、全社員が同じデータソースを日々の業務に生かす「データの民主化」に注力してきた。
ビジネスや政府系の会合の席で、村上が常に心がけていることがある。それは「各論を全体像に落とし込む」ことだ。
「研究者は、細かな技術の話ばかりに目が向くと全体像を見失いがちになる。仕事も同じです。部下には、自分の仕事が会社全体のどの文脈に位置づけられるのかを、自分より2つ上のポジションの人の目線で考えるように伝えています」
AIの世界は目まぐるしく変化している。その時々で視点を切り替えながら、人と技術のより良いあり方を問い続けるAIのエキスパート。村上に、新たな時代を牽引するリーダーのあるべき姿を見た。
むらかみ・あきこ◎早稲田大学大学院卒業後、日本IBM東京基礎研究所で研究に従事。2021年に損害保険ジャパンに入社し、25年4月にSOMPOホールディングス執行役員常務グループCDaOに就任。24年2月からAIセーフティ・インスティテュート所長を務める。


