WOMEN

2026.01.23 12:30

「人間中心AI」の未来を村上明子が語る。AIバイアスに警鐘を鳴らした先駆者

村上明子|SOMPOホールディングス執行役員常務グループCDaO /AIセーフティ・インスティテュート 所長

村上明子|SOMPOホールディングス執行役員常務グループCDaO /AIセーフティ・インスティテュート 所長

現在発売中のForbes JAPAN1月23日発売号第三特集は、テクノロジー領域で世界を変える女性、ジェンダーマイノリティ30人に注目する「Women In Tech 30 2026」。『Forbes JAPAN』では2024年から同企画を開始し、26年は2回目となる。19人のアドバイザリーボードからの推薦をもとに選出した30 人に光を当て、女性、ジェンダーマイノリティたちのエンパワーメントとともに、同領域における次世代のロールモデルが見つかるような企画にしていくことを目標にしている企画だ。世界的に遅れていると言われるなか、転換期を迎えている日本で躍動し、その主役とも言える活躍をしている30人を紹介する。

テクノロジー領域で活躍する女性にフォーカスした「Women In Tech 30」。2026年版の受賞者で、Forbes JAPAN3月号のカバーストーリーをかざる村上明子は、大企業、公的機関の2つの立場から、社会と技術のより良いあり方を模索し、創造し続けているリーダーだ。


2025年12月、日本のAI(人工知能)戦略に大きな動きがあった。政府がAIの開発や活用の方向性を示す「AI基本計画」を閣議決定したのだ。人手不足が深刻な分野へのAI導入を支援するとともに、AIの安全性や利用の適正化に言及している。具体策のひとつが、村上明子が所長を務めるAIセーフティ・インスティテュート(AISI)の抜本的な強化だ。

AISIは、「広島AIプロセス」で起きたAI安全性の議論を機に24年に誕生した公的機関だ。国内外の機関と連携しながらAIの安全性に関する評価手法や基準の検討・推進を手がける。今回の閣議決定ではAISIの人員を約30人から2倍程度に増やすほか、専門人材の受け入れ体制の拡充などが示された。

所長を務める村上こそ、1990年代からAIの研究に従事してきた業界のエキスパートだ。研究・開発・ビジネスの3領域を橋渡ししながら「人間中心のAI」の実装を後押しする。

AIの倫理や安全性の分野では、多くの女性たちがリーダーシップポジションを率いている。背景のひとつにあるのが、AI開発がはらむバイアスの問題だ。村上自身、2010年代前半から「AIに含まれるバイアスが実害をもたらしかねない」と警鐘を鳴らしていた。だが、周囲の男性たちの反応は鈍かったという。

表立って実害が出始めたのは18年だ。米アマゾン・ドット・コムが自社開発したAI搭載の採用システムに女性を差別するという欠陥が見つかり、同社が運用を取りやめたことは大きな話題を呼んだ。

「私は女性研究者というマイノリティの立場だから、早い段階で危うさに気づくことができたのだと思います。AISIの所長に推薦してくださった方のなかには、当時の私の発言を覚えていらした方もいました。少数意見だったとしても、警鐘を鳴らしておいて良かったです」

思えば、子どものころから常に少数派だった。小学生のころはパソコンにハマり、男子生徒と一緒に秋葉原に通った。大学では物理学科を専攻し、男性に囲まれながら研究活動に勤しんだ。日本IBMに入社後、配属先選びでは当時マイナーだった自然言語処理チームを選択した。

「1990年代は『AIの冬の時代』でした。でも私は人と話をするのが好きだし、それをコンピューターで分析するのは面白そうだと直感的に思ったのです」

マイナーだったからこその収穫もあった。国内外の研究者と密な関係を築けたことだ。「AI研究で今まさに中心的な役割を担っている方々はほぼ全員、知り合いです」。

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文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース スタイリング=堀口和貢 ヘアメイク=yoboon

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